マフディー軍

マフディー軍：イラクのシーア派民兵組織の興亡

マフディー軍（アラビア語: جيش المهدي）は、イラクに駐留する外国軍の排除を主な目的とする武装勢力です。かつてはイラク最大規模の民兵組織であり、シーア派の精神的指導者ムクタダー・アッ＝サドル師に従っています。「マフディー」はアラビア語で「導かれた者」、すなわち「救世主」を意味します。この組織は、厳密な組織体というよりは、社会運動に近い側面を持っています。主な活動拠点は、シーア派が多く住むナジャフ市やバグダード南部のサドル・シティ地区です。

創設と初期の活動

マフディー軍は、2003年6月のイラク戦争初期に創設されました。当初はシーア派地区の秩序維持を担い、シャリーア（イスラーム法）に基づく統治を目指していました。2004年には、南部とバグダードで占領軍に対して蜂起しましたが、鎮圧されています。2005年にはバスラでバドル軍と交戦しました。2006年初めには、サドル師が全イスラーム諸国にマフディー軍への支援を要請しました。

しかし、マフディー軍はスンナ派や対立する民兵組織、ジャーナリスト、イギリス兵の誘拐・暗殺に関与したと非難され、自爆テロも使用していました。

政府機関との癒着

報道によれば、マフディー軍の構成員は、イラク警察や軍に浸透を図っていました。ヌーリー・マーリキー政権下では、保健省を実質的に支配し、多くのマフディー軍構成員が職員として雇用されました。2007年2月8日には、サドル師派幹部であるハキーム・アッ＝ザーミリー保健次官が米イラク合同部隊に拘束される事態も発生しました。ザーミリーは、殺人や誘拐、民兵に救急車を利用させたとして起訴されましたが、証拠不十分で取り下げられています。

その後の拡大と宗派抗争

発足当初は5,000人程度だったマフディー軍ですが、2004年の米軍との交戦で多数が死亡し、一時壊滅状態になったと報道されました。しかし、その後、政権参加やスンニ派武装勢力によるシーア派への無差別テロを背景に組織を拡大し、2006年には4万から6万人規模にまで成長しました。2006年2月に起きたアスカリ廟爆破事件をきっかけとする宗派抗争において、マフディー軍はシーア派側の主要な暴力装置として活動しました。

2007年2月に開始された米軍・イラク軍による武装勢力掃討作戦では、マフディー軍も主要な掃討対象となりました。しかし、サドル派を支持基盤とするマーリキー政権は掃討に消極的でした。アメリカ政府は、スンニ派掃討に偏った作戦内容に不満を示しました。また、マフディー軍は勢力を温存するため、幹部や中核メンバーをイランに一時出国させたと報道され、その影響力は依然として大きいと見られていました。

分派の出現

マフディー軍は分派傾向にあり、一部の分派はイランの支援を受けて先鋭化し、主流派と対立していました。これらの「特別グループ」はイランから武器の提供や訓練を受けており、スンナ派住民への殺害や多国籍軍への攻撃を行っていると見られています。ムクタダー・サドル師ですら、これらのグループを統制できていませんでした。多国籍軍は、イラン革命防衛隊・アル＝ゴドス軍とレバノンのヒズボッラーが特別グループの支援において重要な役割を果たしていると指摘しています。

また、マフディー軍内部には、政治信条を持たない犯罪者が入り込み、市民への徴税、殺人、密輸などを行っていました。これら「特別グループ」や犯罪者グループに反対する「現実派」と呼ばれる一派も存在し、米軍やイラク軍に情報提供を行っていました。ムクタダー・サドル師も、マフディー軍の精鋭部隊を使って、急進派や犯罪者グループを処罰しました。

一時的な解散と再編

2008年8月8日、ムクタダー・アッ＝サドルは、マフディー軍を解散し、サドル派の福祉部門・政治組織として再建すると発表しました。名前も「アル＝ムマヒドゥーン」に変更されました。ただし、アメリカ軍が撤退に向けたタイムテーブルを受け入れない場合は、アメリカ軍を攻撃する特別なゲリラ細胞を保持するとしました。しかし、分派はこれに従わないと見られました。

復活

2010年4月23日、シーア派住民を狙った連続爆弾テロを受け、ムクタダー・アッ＝サドルはイラク政府に支援を申し出て、マフディー軍の再編を匂わせる声明を発表しました。政府は拒否しましたが、サドル潮流のスポークスマンは、マフディー軍が既に復活していることを明かしました。武装部隊は「約束日の大隊」と呼ばれており、2011年末までに米軍がイラクから撤収しない場合は、攻撃を開始する準備ができているとしました。

ウバイディーによれば、マフディー軍内部には「ムマヒドゥーン」と「ムナスィルーン」という2つの派閥があり、軍事部門は数千人規模にまで拡大しているとされました。

まとめ

マフディー軍は、創設から解散、そして復活という複雑な経緯をたどったイラクのシーア派民兵組織です。その変遷は、イラクの政治情勢や宗派対立、外国勢力の関与など、様々な要素が絡み合っており、その活動はイラクの不安定化に大きく影響を与えました。

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