コシノヒガン

コシノヒガン（越の彼岸）は、バラ科サクラ属のサクラであり、マメザクラとエドヒガンが交雑して生まれたコヒガン系の種間雑種です。学術的には、栽培品種としてCerasus x subhirtella 'Koshiensis' Koidz.と表記されるほか、コヒガンをマメザクラとエドヒガンの野生種間雑種とみなす場合は、そのコヒガン系に属する下位分類の品種（Cerasus × subhirtella (Miq.) Masam. et Suzuki f. koshiensis）、またはエドヒガンの下位分類の変種（Cerasus itosakura var. koshiensis、Cerasus spachiana var. koshinensis）としても扱われます。

コシノヒガンは、もともと富山県南砺市箕谷に自生していました。江戸時代に栽培化され、高岡古城公園に伝えられたとされています。現在、この自生地には約100本の木があり、富山県の天然記念物に指定されています。コシノヒガンの樹形は傘状で、樹高は高木に成長します。花は一重咲きで、淡紅色の可愛らしい中輪の花を咲かせます。東京での開花時期は3月中旬頃です。コヒガン系に共通する特徴を持ちながらも、コシノヒガンはコヒガンと比較して花が大きく、樹高も高くなる傾向があります。

コシノヒガン（タカトオコヒガン）の栽培品種には、遺伝情報が異なる複数のクローンが存在します。これは、接ぎ木や挿し木による増殖に加え、他の個体と交雑した種子によっても増殖されるためです。各個体の形態が似ていたことから、別々の栽培品種として区別されず、一つの栽培品種として認識されるようになったと考えられています。

富山県南砺市城端の越村家に植栽されている個体は、コシノヒガンの中でも特に観賞性が高いとされています。日本花の会がこの個体を選抜し、苗木を増殖して「越村型」として配布しています。

タカトオコヒガン（高遠小彼岸）との関係

森林総合研究所の研究では、長野県伊那市高遠の高遠城址公園から多摩森林科学園に導入されたタカトオコヒガンは、富山のコシノヒガンと同じ特徴を持っていることが確認されています。このことから、高遠のタカトオコヒガンは富山から運ばれたものであり、両者は別々の栽培品種ではなく、同一の栽培品種であるコシノヒガンである可能性が高いと推定されています。ただし、前述のようにコシノヒガン（タカトオコヒガン）には遺伝情報の異なる複数のクローンが存在するため、すべてのコシノヒガンとタカトオコヒガンが遺伝的に同一であるというわけではありません。

1960年（昭和35年）には、長野県がタカトオコヒガンを県の固有のものとして、長野県の天然記念物に指定しています。

コシノヒガンは、その美しい花と歴史的背景から、多くの人々に愛されています。今後もその保護と研究が進められることが期待されます。

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