マリ (シリア)

マリ：ユーフラテス文明の輝きと謎

シリア北東部、ユーフラテス川西岸に位置するテル・ハリリ遺跡。ここに存在した古代都市国家マリは、紀元前3千年紀から2千年紀にかけて、近東文明史における重要な役割を担いました。メソポタミア文明とシリア・アナトリア文明を繋ぐ交易の中継地として繁栄したマリは、その歴史と文化の豊かさを、数多くの考古学的発見によって今日に伝えています。

マリの発見と発掘

1933年、ベドウィンの人々による偶然の発見をきっかけに、マリ遺跡の発掘調査が開始されました。ルーヴル美術館から派遣されたアンドレ・パロを隊長とするフランス調査隊は、マリ王イシュキ・マリの石像を発見、古代都市マリの遺跡であることを確認しました。その後、第二次世界大戦やスエズ動乱による中断をはさみながらも、1974年までパロ、1979年から2004年まではマルゲロンを隊長として発掘調査が続けられました。現在も発掘調査は継続中で、1000m×600mの遺跡全体の半分以下しか発掘されていない状態です。

マリ文書：古代世界への窓

発掘調査で発見された約2万5千枚の粘土板文書「マリ文書」は、マリの歴史と文化を解き明かす上で貴重な資料です。アッカド語で書かれたこれらの粘土板は、王室の記録、商業文書、私信など多様な内容を含み、当時の政治、経済、社会、宗教など、様々な側面を私たちに伝えてくれます。特に、マリ王国の外交や周辺諸国との関係を知る上で、マリ文書は非常に重要な役割を果たしています。

マリの興亡

マリは紀元前5千年紀には既に集落が存在したと推測されていますが、都市国家としての繁栄は紀元前2900年頃から始まりました。ユーフラテス川とステップ地帯の接点という地理的優位性を活かし、メソポタミア南部とシリア北部の交易の中継地として栄えました。しかし、紀元前24世紀頃に一度破壊され、衰退期に入ります。その原因については諸説あり、アッカド帝国のサルゴンによる征服説や、商業上のライバル都市エブラによる攻撃説などがあります。

その後、アムル人王朝によって復興を果たしたマリは、紀元前1900年頃からの第二の黄金時代を迎えました。この時代には、300以上の部屋を持つ壮大なジムリ・リム王の宮殿や、膨大な文書庫が建設されました。しかし、紀元前1759年、バビロン第1王朝のハンムラビによって再び破壊され、歴史の舞台から姿を消します。マリ文書の中には、ハンムラビとマリ王ジムリ・リムの対立と、その結果としてのマリの滅亡を記録した文書も含まれています。

マリの経済と文化

マリの繁栄は、多様な交易活動に支えられていました。イラン西部、メソポタミア南部と北部、アナトリア半島など、広範囲の地域を結ぶ交易路の中継点として、ナツメヤシ、オリーブ、陶器、穀物、木材、石材など様々な商品が交易されました。マリの影響下にあったテルカなど周辺都市との交易もあったと考えられますが、テルカの発掘調査はまだ進んでおらず、詳細は不明な点が多く残されています。

マリの文化は、メソポタミア文明の影響を強く受けていました。シュメールの神々を信仰し、精巧な装飾品や建築技術も発達していました。特に、豊穣の女神ニンフルサグを祀る儀式に関連する出土品は、古代世界の宗教的・文化的交流を示唆する興味深いものです。

未解明の謎

マリ遺跡の発掘調査は現在も進行中であり、未だ多くの謎が残されています。発掘されていない地層の深さや、マリの繁栄と衰退の過程における更なる詳細、テルカとの関係性など、今後の調査で新たな発見が期待されています。マリ遺跡は、古代オリエント世界の複雑な歴史と文化を理解する上で、今後も重要な役割を果たし続けるでしょう。

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