ニンフルサグ

ニンフルサグ：シュメールの大地母神

ニンフルサグは、古代シュメール神話において重要な位置を占める大地の女神です。彼女は運命を定める7人の神々の一柱として数えられ、主に土地の豊穣や繁殖を司る存在として崇められていました。

多様な側面を持つ女神

ニンフルサグは、単なる豊穣の女神という枠には収まりません。シュメール神殿の聖歌では「天における真に偉大なる女神」と称えられ、歴代のシュメール王はニンフルサグの乳によって養われたと伝えられています。これは、彼女が王権の正当性をも与える、母なる存在として認識されていたことを示唆しています。また、特定の王にとっては守護神としての役割も担っていました。

彼女の姿は、角のついた頭飾りと段々のスカートを身に着け、矢筒を背負った姿で描かれることが一般的です。しかし、時にはライオンの子を連れた姿でも表現され、その多面的な性格を反映しています。

豊富な別名

ニンフルサグは、以下の通り多くの別名を持っています。これらの名前は、彼女の多様な側面を表していると言えるでしょう。

ニンマー（Ninmah）：偉大なる女王
ニントゥ（Nintu）：出産の女神
ママ（Mama）/マミ（Mami）：母
アルル（Aruru）：エンリルの妹
ベレト・イリー（Belet-Ili）：神々のなかの貴婦人（アッカド語）
ニンジナク（Ninzinak）：胎児の女神
ニンディム（Nindim）：ファッションの女神
ナガルサガク（Nagarsagak）：内装工
ニンバハル（Ninbahar）：窯業の女神
ニンマグ（Ninmag）：外陰の女神
ニンシグシグ（Ninsigsig）：静寂の女神
ムドケスダ（Mudkesda）：血の忠誠を司る者
アマウドゥダ（Amaududa）：生命を産み出す母
サグズディンギレナク（Sagzudingirenak）：神々の助産師
ニンメンナ（Ninmenna）：王権の守り神
ダムガルヌンナ

これらの名前の中には、元々は別の女神を指していたものが、後にニンフルサグと融合・同一視されるようになったものも含まれています。また、エンキとの間に生まれたとされるニンサル、ニンクルラ、ウットゥといった女神も、かつてはニンフルサグと同一視されていた可能性があります。

伝説によれば、「ニンフルサグ」という名前は、彼女の息子であるニヌルタが山を創造したことを記念して、ニンマーから改名されたことに由来します。一方、「ニンメンナ」という名前は、バビロニアの宗教において、エアンナ神殿で金の王冠を受けたことに由来するとされています。

神話におけるニンフルサグ

ニンフルサグは、数々の神話に登場し、その創造性と母性愛を示すエピソードが語り継がれています。

エンキとの関係

「エンキとニンフルサグ」の神話では、エンキとの間に娘ニンサルが生まれます。しかし、エンキはその後もニンサルやその娘であるニンクルラ、さらにウットゥとも関係を持ちます。困ったウットゥはニンフルサグに助けを求め、ニンフルサグはエンキの精から生じた8種類の植物を、エンキ自身が食べて病気になるように仕向けます。最終的に、ニンフルサグはエンキの体から植物を取り除き、それぞれを神として蘇らせることでエンキを癒します。この物語は、ニンフルサグの知恵と生命を司る力、そしてエンキの奔放さを象徴しています。

人間の創造

別の神話では、エンキが作った「鍬」によって現れた人間を、ニンフルサグが完成させたとされています。また、母なる女神ナンムが粘土から人間を作り出す際、ニンマー（ニンフルサグの別名）が助産婦の役割を果たしたとも伝えられています。これらのエピソードは、ニンフルサグが人間の創造に深く関わっていたことを示唆しています。

崇拝の痕跡

ニンフルサグのシンボルであるオメガ（Ω）は、紀元前3000年頃から紀元前2000年代前半にかけて使用されていました。境界石の上段に描かれていることから、彼女の重要性が伺えます。

ニンフルサグの神殿はエサギラと呼ばれ、エリドゥのクフールにありました。また、キシュにも彼女の神殿が存在しました。

ニンフルサグは、古代シュメール文明において、人々の生活と密接に結びついた、偉大なる母なる女神として崇拝されていたのです。

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