マリア・テレサ・デ・バリャブリガの肖像 (ノイエ・ピナコテーク)

『マリア・テレサ・デ・バリャブリガの肖像』

『マリア・テレサ・デ・バリャブリガの肖像』は、スペインのロマン主義の巨匠フランシスコ・デ・ゴヤによって1783年に描かれた肖像画です。この作品は、スペイン王国の王族ルイス・アントニオ・デ・ボルボーン・イ・ファルネシオ親王の妻であるマリア・テレサ・デ・バリャブリガ・イ・ロサスを題材にしています。現在、この肖像画はミュンヘンのノイエ・ピナコテークに収蔵されており、他にも異なるバージョンがマドリードのプラド美術館やフィレンツェのウフィツィ美術館、さらに個人コレクションに含まれています。

マリア・テレサの背景

マリア・テレサは1759年にアラゴンの下級貴族、義勇軍騎兵連隊長ホセ・イグナシオ・デ・バリャブリガの娘として生まれました。彼女はメルフォート伯爵家の血を引く母、ホセファ・デ・ロサス・イ・ドラモンド・デ・メルフォルトのもとで育ちました。1776年、彼女はドン・ルイス親王と結婚しましたが、この結婚は低い身分出身であったため、さまざまな困難に直面しました。夫と一緒に宮廷生活を送ることができなかったマリア・テレサは、アビラ県に隠遁させられ、家庭から引き離されてしまいました。

ドン・ルイス親王は宮廷で活動する一方、マリア・テレサはその権利を奪われ、子供たちも王室から遠ざけられました。1785年に夫が亡くなると、国王カルロス3世は子供たちを母親から引き離し、マリア・テレサは孤独な生活を強いられました。1792年、彼女はサラゴサに帰る許可を得るものの、子供たちを訪ねることはできませんでした。1797年には、娘の一人がカルロス4世の側近と結婚したことから状況が好転し、彼女は再び生活の光を見いだします。

作品の制作経緯

ドン・ルイス親王は、ゴヤの重要な後援者でもあり、彼の影響を受けて多くの肖像画が制作されました。1783年から1784年にかけて、ゴヤはアビラ県に滞在し、ドン・ルイス親王やその家族の肖像画を大量に手掛けました。中でも特に知られているのが、『ドン・ルイス・デ・ボルボーン親王の家族』という集団肖像画です。マリア・テレサの肖像もこの時期に描かれ、多くの作品が残されています。

作品の特長

ゴヤは、マリア・テレサを半身像で表現しており、彼女は肘掛け椅子に寄りかかって鑑賞者の方を見つめています。彼女はレースで飾られた黒と赤のシルクドレスに白いロンググローブを身に着け、髪にはダイヤモンドの飾りをつけて黒い羽根飾りでまとめられています。画面左からの光が彼女の精細な顔を照らし出しており、衣服や髪はより自由な技法で仕上げられています。背景にはアーチがあり、かすんだ風景が広がっています。この作品は、かつてアントン・ラファエル・メングスの『ドン・ルイス・デ・ボルボーン親王の肖像』の対作品とされていました。

来歴

当初、この肖像画はドン・ルイス親王の宮殿から出たもので、後にマリア・テレサの娘、マリア・ルイサ・デ・ボルボーンと彼女の夫である初代サン・フェルナンド・デ・キロガ公爵の所有となりました。その後、ミュンヘンの個人コレクションに渡り、現在も新たな鑑賞者の眼に触れることが期待されています。

この作品は、ゴヤの卓越した技術とマリア・テレサの人生を映し出した重要な作品として、今も多くの人々に感動を与えています。

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