マリウス・バルバロウ

マリウス・バルバロウ：自動車と航空機のパイオニア

マリウス・バルバロウ(1876-1956)は、20世紀初頭の自動車と航空機の黎明期において、技術者として、そしてレーシングドライバーとして重要な役割を果たしたフランス人です。鍛冶屋の父を持つ彼は、若くしてパリの自動車工房で修業を始め、類まれな才能で頭角を現しました。

パナール・エ・ルヴァッソールからクレメント・バイヤードへ

バルバロウのキャリアは、1893年から1894年にかけて、パリのパナール・エ・ルヴァッソールの工房での整備士見習いから始まりました。ここで培った経験は、後の彼の活躍の礎となりました。1900年のパリ万国博覧会では、彼自身の設計による革新的なエンジンを発表。その才能はすぐに認められ、同年中にクレメント・バイヤード社のアドルフ・クレメント＝バイヤードの設計事務所へ入社します。ここでは3種類のエンジンの開発に携わり、技術者としての地位を確立していきました。

ベンツ社での活躍とパルシファルの開発

1902年、バルバロウはダイムラー社に対抗すべく、ベンツ社へ移籍します。わずか25歳にして技師長に抜擢され、その手腕を発揮しました。特に注目すべきは、ベンツ・パルシファルの開発です。この車両のために、彼は直列2気筒、そして直列4気筒60馬力のエンジンを設計しました。当時としては画期的な低重心設計と、ドライブシャフトを用いた駆動伝達方式を採用したパルシファルは、10年以上先を行く技術革新であり、バルバロウの技術力の高さを証明するものです。ドライブシャフトは当時一般的ではなかったため、このパルシファルの採用は非常に先進的なものでした。彼はフランスから5人のエンジニアを引き連れてベンツ社へ入社しましたが、この行為は創業者のカール・ベンツの許可なく行われたため、やがてカール・ベンツは会社を離れることになります。

レーシングドライバーとしての活躍

バルバロウは設計だけでなく、自ら開発した車両を駆り、数々のレースにも参戦しました。クレメント・バイヤード時代にはパリ～ベルリンレースに出場。ベンツ社時代にはパリ～マドリッドレースなどに参加し、1902年にはベルギーで行われた12時間耐久レースで優勝するなど、レーシングドライバーとしても成功を収めました。

ドローネ・ベルヴィルとロレーヌ・ディートリッヒでの貢献

ベンツ社退社後、バルバロウはフランスに戻り、ドローネ・ベルヴィル社の技術部門トップに就任。パリ・サロンで発表された最初の車を含む、数々の高級車の開発に貢献します。その後、ロレーヌ・ディートリッヒ社に移籍し、技術部門を率いましたが、第一次世界大戦の勃発により、航空機エンジン製造に力を注ぐことになります。戦後には、ロレーヌ 12Ebなどの航空機エンジンの開発にも携わっています。

バルバロウの功績

マリウス・バルバロウは、自動車と航空機の両分野で卓越した才能を発揮した技術者でした。彼の開発した車両やエンジンは、当時の技術革新を象徴するものであり、後の自動車産業や航空機産業の発展に大きな影響を与えたことは間違いありません。彼の功績は、単なる技術者としての枠を超え、真のパイオニアとして称えられるべきでしょう。彼の名前は、自動車史、そして航空機史に永遠に刻まれることでしょう。

参考文献

Karl Ludvigsen (1995-06). Mercedes-Benz Quicksilver Century. Transport Bookman Publications. ASIN 0851840515. ISBN 0-85184-051-5
赤井邦彦（著）、1999-10-28、『シルバーアロウの軌跡: Mercedes‐Benz Motorsport 1894〜1999』、ソニー・マガジンズ ISBN 4-7897-1417-9
宮野滋（著）、2012-04-25、『メルセデス・ベンツ 歴史に残るレーシング活動の軌跡 1894-1955』、三樹書房 ISBN 978-4-89522-589-2
宮野滋（著）、2017、『メルセデス・ベンツ 歴史に残るレーシング活動の軌跡 1894-1955 [新装版]』、三樹書房 ISBN 4-89522-671-9
* Marius Barbarou - Mercedes-Benz Public Archive （英語）

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