マリク・シャー

マリク・シャー1世：セルジューク朝の全盛期を築いた名君

マリク・シャー1世（1055年8月8日 - 1092年11月19日）は、セルジューク朝第3代のスルタンとして、1072年から1092年まで君臨しました。父アルプ・アルスラーンが急死したため、わずか17歳で即位という重責を担うことになります。しかし、彼は名宰相ニザームルムルクの献策と手腕により、数々の困難を乗り越え、セルジューク朝の黄金時代を築き上げたのです。

即位と王都遷都

即位後、マリク・シャーは、伯父カーヴルト・ベグの反乱や弟テキシュの反乱といった内紛に直面します。これらの反乱を鎮圧する過程で、彼は政治的策略を用い、ケルマーン地方の支配を事実上認めたり、反乱勢力の弱体化を図ったりしました。こうした内政上の課題に対処するため、彼は王都をイスファハーンに移転します。この決定は、東方のカーヴルド王家や西方のアッバース朝への牽制、そして北方のカスピ海沿岸地域、東方のホラーサーン、マー・ワラー・アンナフル、西方のアナトリア、シリア方面へのアクセス向上といった戦略的な意味合いを持っていました。イスファハーンは、後の領土拡大において重要な拠点となるのです。

セルジューク朝の勢力拡大

マリク・シャーは、アナトリア地方のセルジューク系アミールたちの紛争を調停するため、スライマーンを派遣し、ルーム・セルジューク朝の基礎を築きます。シリアには弟トゥトゥシュを、ホラーサーンには息子アフマド・サンジャルをそれぞれ任命し、広大な領土を効果的に支配下に置きました。これにより、セルジューク朝の勢力は東はアフガニスタンから西は東ローマ帝国にまで及ぶ、一大帝国へと発展していきます。

統治と宗教政策

マリク・シャーの治世は、ニザームルムルクによる強力な中央集権化によって支えられました。ニザームルムルクは官僚制度を整備し、効率的な行政システムを構築しました。マリク・シャーは、ニザームルムルクの助力を得て、国内の安定を保ちながら、積極的な領土拡大政策を進め、帝国の繁栄をもたらしました。文化面においても、1074年にはバグダードに天文台を建設し、ウマル・ハイヤームに新暦の編纂を命じるなど、文化・科学の発展にも貢献しました。

一方、宗教政策においては、スンナ派を優遇しイスマーイール派を弾圧する政策を取りましたが、これは成功しませんでした。この宗教政策の失敗は、後に王朝衰退の一因となったとする見方もあります。

ニザームルムルクの暗殺とマリク・シャーの死

1092年、マリク・シャーの妃テルケン・ハトゥンによってニザームルムルクが暗殺されるという衝撃的な事件が発生します。この事件は、マリク・シャーに大きな悲しみをもたらしました。しかし、彼はすぐに病に倒れ、ニザームルムルクの死からわずか一ヶ月後、37歳という若さでこの世を去ります。

マリク・シャーの死は、セルジューク朝の全盛期に終止符を打ち、その後の王朝衰退につながる大きな転換点となりました。彼の在位20年間は、セルジューク朝の黄金時代であり、ニザームルムルクとの協力体制の下、広大な帝国を築き上げ、文化・科学の発展にも貢献した、名君として歴史に名を残しています。

関連項目

* エスファハーンの金曜モスク

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