マルクス・アウレリウス・カルス

マルクス・アウレリウス・カルス：短命に終わった皇帝の生涯と謎

マルクス・アウレリウス・カルス（222年頃 - 283年7月/8月）は、3世紀のローマ帝国を揺るがした軍人皇帝の一人です。ガリア・ナルボネンシスで生まれ、ローマで教育を受けた彼は、文武両道に優れた元老院議員としてキャリアを積みました。その後、プロブス帝の下でプラエフェクトゥス・プラエトリオ（近衛軍司令官）にまで昇進します。

282年、プロブス帝がペルシャ遠征に乗り出した際、カルスはノリクム・ラエティア駐屯軍の支持を受け、反乱を起こします。プロブス帝は自身の兵士によって暗殺され、カルスはローマへ凱旋し、皇帝の座に就きました。彼は自身の名をマルクス・アウレリウス・カルスと改め、二人の息子、カリヌスとヌメリアヌスをカエサルに任命しました。翌年にはカリヌスをアウグストゥスに昇格させ、西部の属州の統治を委ねました。

カルス帝はヌメリアヌスと共に東部戦線に戻り、ドナウ川流域で蛮族を撃破しました。そして、先帝プロブスが計画していたペルシャ遠征を再開し、メソポタミアに侵攻を開始します。遠征は当初順調に進み、クテシフォンの近郊のコケを占領するまで至りました。

しかし、カルス帝の野望はそこで頓挫します。ティグリス川沿いの駐留地で落雷に遭い、急死したのです。この死には、プラエフェクトゥス・プラエトリオのルキウス・フラウィウス・アペルによる暗殺説も囁かれていますが、真実は藪の中です。

カルス帝の死後、ペルシャ遠征軍はヌメリアヌスによって撤退されました。しかし、ヌメリアヌスもまた（アペルによるものと推測されていますが）、暗殺されたとされています。カルスの死と、その後継者である息子たちの急死は、ローマ帝国に大きな混乱をもたらしました。

カルス帝の家族と謎めいた孫、ニグリニアヌス

カルス帝には、妻マグニア・ウルビカとの間にカリヌス、ヌメリアヌス、アウレリア・パウリナの2男1女がいました。ヌメリアヌスはアペルの娘と結婚していたとされますが、娘アウレリアの消息は不明です。

特筆すべきは、カルス帝の孫であるニグリニアヌスです。彼の出自に関しては、カリヌスとその妻の息子とする説と、アウレリアの息子でカリヌスとヌメリアヌスの甥とする説の2つがあります。ニグリニアヌスの生涯も謎に包まれています。283年頃に生まれ、284年後半から285年前半の間に乳児期に夭折したとも、311年にマクセンティウスに敗れてアフリカ属州で死亡したとも言われています。

興味深いことに、カルスの孫という記録が見つかる前は、ニグリニアヌスは311年にアフリカでマクセンティウスに敗北したルキウス・ドミティウス・アレクサンデルの息子であると推測されており、カルスとは全く無関係な人物と考えられていました。この発見は、カルス帝の家族関係の複雑さを改めて示すものと言えます。

マルクス・アウレリウス・カルスの短い治世は、彼の急死、そして彼の家族を巡る謎に満ちた出来事によって、ローマ帝国の歴史に暗い影を落としたと言えるでしょう。彼の死の真相、そして家族の運命は、未だ研究者の間で議論が続けられています。

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