マルセル・ジュノー:赤十字の医師として、戦禍を駆け抜けた生涯
マルセル・ジュノー(
1904年~
1961年)は、
スイス出身の
医師であり、
赤十字国際委員会(ICRC)の活動に生涯を捧げた人道主義者です。
ジュネーヴ大学で
麻酔科学を修めた彼は、第二次
エチオピア戦争、
スペイン内戦、そして第二次世界大戦と、数々の紛争においてICRCの派遣員として活動しました。
ジュノーの活動は、単なる医療支援にとどまりませんでした。彼は紛争地において、捕虜の安否確認、郵便物の交換、救護物資の手配、そして直接的な医療支援など、多岐にわたる人道支援活動に従事しました。
スペイン内戦ではフランコ政権から、第二次世界大戦中は
ドイツから危険視され、
ゲシュタポに拘束されたこともありました。これらの経験は、彼の人道活動の原動力となったと言えるでしょう。
第二次世界大戦中、ジュノーは
ドイツ、
ポーランド、
フランス、
ギリシャなど、ヨーロッパ各地を転戦しながら、絶え間ない人道支援活動を展開しました。
1944年には、ICRC駐日主席代表に任命されましたが、日本政府からの入国許可が下りず、その任に就くことはありませんでした。
しかし、終戦後の
1945年、ジュノーは
ジュネーヴから長旅の末に日本へ到着します。
カイロ、
テヘラン、
シベリアを経由し、満州国、そして
東京へとたどり着いた彼は、連合国捕虜の収容状況の確認作業に携わりました。
そして、広島への原爆投下の悲惨な現実を目の当たりにします。ジュノーは、被爆地の惨状を目の当たりにし、ただちにGHQ(
連合国軍最高司令官総司令部)と交渉。交渉の結果、1万人の被爆者を1ヶ月治療できる量の医薬品(
包帯、乾燥
血漿など)15トンもの提供に成功しました。この迅速な対応は、被爆者救済に大きな貢献を果たしました。
広島の視察後も、ジュノーは
核兵器の非人道性を訴え続けました。彼の活動は、世界に
核兵器の恐ろしさを知らしめ、平和への呼びかけとなりました。
1959年には、
在日朝鮮人の帰還事業に関連して、
赤十字国際委員会から日本への使節として来日。
岸信介首相や
藤山愛一郎外相らと会談し、日本政府の帰還調整委員会にオブザーバーとして参加するなど、約1ヶ月間日本に滞在しました。
ジュノーは
1961年に
スイスで亡くなりましたが、その功績は後世に伝えられています。
1979年には、
広島平和記念公園に顕彰記念碑が建立され、彼の献身的な人道活動が称えられています。彼の生涯は、紛争下の苦しみを目の当たりにした
医師が、人道主義に基づいて行動し続けた、一人の人間の力強い物語です。
ジュノーの活動は、複数の文献資料にも記録されています。代表的なものとして、『ドクター・ジュノーの戦い 増補版』(
勁草書房、
1991年)があり、彼の生涯と活動の詳細が記されています。その他にも、赤十字関連の書籍や新聞記事にも、彼の功績が取り上げられています。
彼の活動は、単なる歴史的記録としてではなく、現代社会においても、人道主義の重要性、そして紛争解決への平和的なアプローチの必要性を訴えかける、重要な教訓として受け継がれていくべきでしょう。ジュノーの精神は、現代においても、紛争の解決と人道支援に携わる人々にとって、大きな指針となるでしょう。