マルティナ (東ローマ皇后)

マルティナ：帝国の運命を翻弄した皇后の生涯

マルティナ（生年不明 - 641年以降）は、東ローマ帝国ヘラクレイオス王朝の初代皇帝ヘラクレイオス（在位：610年 - 641年）の皇后であり、ヘラクレイオス帝の姪にあたる女性です。ヘラクレイオスの妹マリアの娘として生まれ、皇帝にとっては二度目の結婚相手でした。

スキャンダラスな結婚

613年に先妻エウドキアが亡くなると、ヘラクレイオスは実の姪であるマルティナを后に迎えました。しかし、この結婚は当時から大きな反発を招きました。コンスタンティノープルの市民や教会からは祝福されず、皇族からも近親相姦であると非難の声が上がりました。コンスタンディヌーポリ総主教セルギオスも離縁を勧めたほどでしたが、ヘラクレイオスはマルティナを共同統治者として宣言し、自ら戴冠式を執り行いました。

政治への関与と策謀

スキャンダルにまみれた結婚ではありましたが、ヘラクレイオスとマルティナの夫婦仲は良好だったと伝えられています。マルティナは、ヘラクレイオスがサーサーン朝ペルシャ帝国と戦う際には、苦難を共にして戦場にも随行しました。しかし、夫婦の間には少なくとも10人の子供が生まれたものの、そのうち2人が障害を持っていたため、近親婚への天罰であると囁かれました。

マルティナは、息子ヘラクロナスを帝位につけるべく、ヘラクレイオスの在世中から様々な策謀を巡らせていました。638年にはヘラクロナスにアウグストゥスの称号を取得させ、後継者としての地位を確立しようとしました。

権力闘争と失脚

641年にヘラクレイオス帝が崩御すると、遺言により先妻の子コンスタンティノス3世とマルティナの息子ヘラクロナスが共同皇帝として即位しました。マルティナは皇太后として権勢を振るうはずでしたが、コンスタンティノス帝との対立は避けられませんでした。コンスタンティノス3世がわずか4ヶ月後に急死すると、マルティナが毒殺したという噂が広まりました。

マルティナはコンスタンティノスの死後、自身の勢力拡大を図り、コンスタンティノスの支持者を追放したり、単意論を復活させようとしたりしました。しかし、これらの強引な行動は市民の反感を買い、コンスタンティノープルで暴動が発生しました。さらに、アルメニア人アルサキドゥスが軍を率いてカルケドンへ進軍したことで、ヘラクロナスはコンスタンティノスの遺児ヘラクレイオス・コンスタンティノスを共同統治者に指名せざるを得なくなりました。

しかし、市民の怒りは収まらず、ヘラクロナスは退位に追い込まれ、マルティナもろとも権力の座から引きずり下ろされました。ヘラクロナスは鼻を削がれ、マルティナは舌を切り落とされた上でロドス島へ流刑に処されました。その後、ヘラクレイオス・コンスタンティノスがコンスタンス2世として単独で帝位に即位し、マルティナの消息は途絶えました。

マルティナは、皇位簒奪を企てた悪女として歴史に名を残しましたが、その生涯は、東ローマ帝国の権力闘争の激しさと、一人の女性が運命に翻弄される姿を象徴していると言えるでしょう。

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