マルメロ

マルメロ (榲桲・木瓜) とは

マルメロ（学名: Cydonia oblonga）は、バラ科マルメロ属に分類される落葉高木の一種で、マルメロ属はこのマルメロ一種のみで構成されています。原産地は中央アジア。

名称について

ポルトガル語では、果実をマルメロ、樹木をマルメレイロと呼びます。英語ではクインス (quince) と呼ばれ、別名として「セイヨウカリン」とも呼ばれます。果実の見た目がカリンに似ているため、栽培が盛んな地域では「かりん」と呼ばれることもあります。漢字では「木瓜」と表記されることもありますが、セイヨウカリン、カリン、ボケはそれぞれ異なる属に分類されます。

学名の属名 Cydonia は、ギリシャのクレタ島にある古代都市シドニアに由来します。

植物分類上の系統

マルメロ属はマルメロの1属1種ですが、カリン属、カナメモチ属とは非常に近縁です。さらに、セイヨウカリン属、ボケ属、リンゴ属、ナシ属なども、バラ科の中では比較的近い系統に属しています。

栽培されているマルメロは、長い年月をかけて優良な果実をつける個体が選抜・交配されてきた結果、遺伝的多様性が失われつつあります。そのため、原産地のマルメロを保護し、将来の交配に備えて遺伝的多様性を保つ必要性が指摘されています。

特徴

原産地は中央アジアのコーカサス山脈周辺（アルメニア、トルクメニスタン）やイランです。日本へは江戸時代にポルトガル船によって長崎に伝来しました。マルメロはカリンよりもやや涼しい場所が栽培に適しています。年間を通して最高気温が7度を下回る日が2週間以上ないと、花が咲きにくい性質があります。世界のマルメロ生産量の4分の1をトルコが占めており、日本では主に長野県で栽培されています。

樹皮は灰褐色で縦筋があり、滑らかです。成木になると鱗片状に剥がれますが、まだら模様にはなりません。一年枝は赤褐色で、灰色の毛に覆われています。葉は互生し、長さ7-12cm、幅6-9cmで、白い細かな毛で覆われています。

花期は春（4-5月）で、カリンよりも遅れて葉が出た後に花が咲きます。花は直径約5cmで、白っぽいピンク色の5枚の花弁を持ちます。

果実（ナシ状果）は偽果で、熟した果実は明るい黄橙色で洋ナシ型をしており、長さ7-12cm、幅6-9cmです。リンゴやセイヨウナシよりも大きく、表面はゴツゴツしています。果実はカリンに似ていますが、未熟な果実は緑色で、熟すと黄色くなり、表面は灰色から白色の軟毛で覆われます。果実は渋くて硬く、生食には向きません。

冬芽は円錐形または卵形で、枝と同色です。枝先に仮頂芽がつき、枝には側芽が互生します。葉痕は三角形で、維管束痕が3個あります。

食用

果実は芳香がありますが、強い酸味と硬い繊維質、石細胞のため、生食には適しません。しかし、カリンよりも果肉が柔らかいため、果実酒、蜂蜜漬け、砂糖漬け、ジャムなどに加工して利用されます。調理する際は、成熟果の表面に残っている軟毛をよく落としてから切ります。加熱すると白い果肉が鮮やかなルビー色に変わります。

マーマレードは、マルメロの砂糖漬けが語源であるという説があります。江戸時代には、マルメロから作られたジャムを使った南蛮菓子「加勢以多」が熊本藩主細川家の御用達となり、朝廷や幕府にも献上されました。

イギリスでは、19世紀に甘い果物が普及するまで、マルメロが一般家庭で広く利用されていました。地中海沿岸地域では、古典時代からマルメロが料理や文化に深く根付いており、現在でも甘い料理や塩味の料理に使われています。

文化

マルメロの花言葉は「幸福」「魅惑」です。

マルメロは「愛の糧」とも呼ばれ、ギリシャ神話で英雄パリスが女神アフロディーテに捧げた黄金のリンゴは、マルメロの実を指すと言われています。アタランテとヒッポメネスの競争で、ヒッポメネスが使用した黄金のリンゴもマルメロであったとされています。紀元前600年頃の古代ギリシャのアテネでは、婚礼の夜に新婦にマルメロの実を食べさせると、気立てが良く、口臭や声が良い妻になると信じられていました。古代ローマ人は寝室の芳香剤としてマルメロの実を置き、ルネサンス美術では情熱・忠誠・豊穣の象徴として描かれました。

現代のギリシャでも、伝統的なウェディングケーキにマルメロの実が使われます。マルメロの実が媚薬になると言われるのは、その強い芳香が由来かもしれません。

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