マルメロ、キャベツ、メロン、キューリのある静物

『マルメロ、キャベツ、メロン、キューリのある静物』

フアン・サンチェス・コターンによって1602年ごろに制作された『マルメロ、キャベツ、メロン、キューリのある静物』は、17世紀のスペイン・バロック時代を代表する静物画です。この作品は、現代でも高く評価されており、サン・ディエゴ美術館に展示されています。コターンはトレドを拠点に活躍した画家であり、豊かさと静物画の技法に秀でたその作品は、特に食材の描写において名を馳せています。

作品の特徴

この絵画は、画面上に配置されたマルメロ、キャベツ、メロン、キューリといった食材を中心に描かれています。食材は左から右に並び、特にマルメロとキャベツは糸で吊るされている様子が特徴的です。これは当時の食生活における保存方法であり、作品はスペインのボデゴン（厨房画）として分類されています。

コターンは、光の使い方が巧みであり、鑑賞者の視点に向かって強い明るさが差し込むような構図で描いています。物体は非常に接触感のある近さで描かれていますが、それでも観る者からは隔たる位置にあるように見えます。自然主義的でありながら、それぞれのモティーフは暗い背景に際立って存在し、まるで彫刻のように重厚で物質感に溢れています。また、絵の中央が空白であることは、モティーフの配置に偶然を感じさせ、観る者に不安感を抱かせます。

この作品の特筆すべきは、モティーフの彫刻的描写と独特の遠近法です。キャベツとマルメロは、メロンやキューリに比べて前面に位置しているように見えます。研究者のハネケ・フローテンボールは、モティーフの詳細と黒い背景との対比に注目し、背景が奥行き感を否定しつつもその印象を喚起する様子を解説しています。また、ノーマン・ブライソンは、モティーフの動きのなさと人間の栄養としての役割からの分離を指摘し、形態の幾何学的な秩序は主題を表現するものではなく、「それ自身のために」存在している様だと考察しています。さらに、シリ・ハストヴェットは、この非現実的で抽象的な空間が神聖な贈り物としての食材を表現する重要な要素であると主張しています。

コターンのカルトジオ修道士としての影響

コターンは1603年または1604年にカルトジオ会に入会しましたが、その影響は本作においてすでに見られます。彼が描く静物画の食材が持つ象徴的な意味と宗教的な視点は、彼の後の作品においても重要なテーマとなります。一見日常的な場面が、より高尚な思想や精神性との結びつきを持っていることが、作品の深い魅力を生んでいます。

遺産と評価

この作品は、1818年に亡命した元スペイン王ジョゼフ・ボナパルトによってペンシルベニア美術アカデミーに売却され、現在はサン・ディエゴ美術館に展示されています。同美術館の学芸員であるジョン・マルシアーリは、コターンのこの絵画が「世界的に称賛される傑作」であると認識しています。長年にわたりこの絵画の目的や歴史的背景についての議論が続いており、その確固たる魅力と成り立ちは、今なお視覚芸術において重要な位置を占めています。

アメリカの画家ジョン・クレム・クラークは、本作を基にしたスーパーリアリズムの複製を1979年に制作し、また、2006年にはイスラエルの写真家オリ・ゲルシュトが食材の一部を入れ替えた版を制作しています。このように、コターンの『マルメロ、キャベツ、メロン、キューリのある静物』は、時代を超えてさまざまに解釈され、影響を与え続けています。

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