マンチェスター・ソナタ

『マンチェスター・ソナタ』（Manchester Sonatas）は、イタリアの作曲家アントニオ・ヴィヴァルディが手掛けた12曲からなるヴァイオリン・ソナタ集です。この名称は、1973年に音楽学者マイケル・トールボットによって、イングランドのマンチェスター中央図書館が所蔵するニューマン・フラワー・コレクションの中から発見されたことに由来します。作品自体はマンチェスターという都市とは直接的な関連はありません。

来歴

このソナタ集は、ヴァイオリンとチェンバロのために書かれており、1720年代にヴィヴァルディの重要な後援者であったピエトロ・オットボーニ枢機卿に献呈されたと考えられています。枢機卿が1740年に亡くなった後、彼の個人コレクションに含まれていた多数の楽譜写本が、イギリスの古典学者エドワード・ホルズワースによって購入されました。これらの写本は最終的に、ヘンデルのオラトリオ『メサイア』の台本を手掛けた人物であり、ヴィヴァルディの音楽を高く評価し楽譜を熱心に収集していたチャールズ・ジェネンズの手に渡ります。

ジェネンズのコレクションは、1918年にロンドンのサザビーズで分割され、オークションにかけられることになります。その過程で複数の所有者を経て、著名な音楽学者であったニューマン・フラワーがサザビーズでこのヴィヴァルディのソナタを含むいくつかの楽譜を入手しました。1964年にフラワーが死去した後、彼の音楽関連の蔵書はマンチェスター公立図書館が購入し、ヘンリー・ワトソン音楽図書館に収容されました。当時のイギリスではヘンデルへの注目が非常に高かったため、ヘンデル研究で名高かったフラワーのコレクションは、当初ヘンデル関連の資料が主な関心を集め、その他の作曲家の作品、特にこのヴィヴァルディのソナタ集は、1973年に至るまで見過ごされていました。最終的にこの貴重な楽譜を発掘し、その存在を明らかにしたのがマイケル・トールボットです。

作曲形式と成立

「マンチェスター」ソナタ集は、他の大規模な作品集と同様に、ヴィヴァルディが以前に作曲した音楽からの借用と、新たに書き下ろした音楽が組み合わされています。全12曲のうち、少なくとも部分的に過去の作品に基づいていない全く新しい発見は、第5番（RV 759）、第10番（RV 760）、第11番（RV 756）、第12番（RV 754）の4曲のみです。それ以外の作品は、ヴィヴァルディ自身によってこの新しいコレクションのために改訂された形跡が見られます。

改訂の手法としては、調性の変更、旋律線やバスラインの修正、楽章の構成変更などが行われています。特に、協奏曲の楽章をヴァイオリン・ソナタに合うように再構成した例も見られます。例えば、第9番（RV 17a）は、グラーツで発見されたRV 17のソナタの異稿であり、その第2楽章は、6つのチェロソナタの第1番（RV 47）の第2楽章にも転用されています。

正確な改訂の日付は記録されていませんが、その音楽様式から多くの作品が1716年から1717年頃に遡ると考えられています。「マンチェスター」ソナタ集が発見される前からヴィヴァルディの作品として知られていた4曲のうち、第1番（RV 3）、第2番（RV 12）、第7番（RV 6）の3曲は、この時期にイタリアに滞在していたザクセン選帝侯宮廷のヴァイオリニスト、ヨハン・ゲオルク・ピゼンデルと関連が深いことが指摘されています。ピゼンデルは第1番と第2番を筆写した記録があり、第7番を含むヴィヴァルディのいくつかのソナタや協奏曲の熱心な支持者でした。これらの状況証拠から、トールボットはこの「マンチェスター」コレクションの改訂と写本の作成が、ピゼンデルがドレスデンに帰還した1717年の直後から始まり、1726年のオットボーニ枢機卿への献呈に至ったと推測しています。

作品内容の特徴

音楽そのものについて見ると、ソナタ第2番を除く11曲が、教会ソナタ（ソナタ・ダ・キエザ）の伝統的な緩-急-緩-急の4楽章構成に従っています。これらの作品は、スローテンポの前奏曲（プレルーディオ）に続き、3つの舞曲風の楽章を持つ構造が特徴です。ただし、改訂前の楽譜には舞曲のタイトルが後から追加された形跡があり、これらのタイトル（アレマンダ、サラバンド、コレンテ、ジーグなど）を額面通りに解釈すべきかは必ずしも明確ではありません。

楽章の名称は主に拍子とテンポに基づいて機械的に適用された側面が強いと考えられます。例えば、速い3拍子の楽章はコレンテ、速い2拍子や4拍子の楽章はガヴォット、アレマンダ、ジーグなどと呼ばれます。緩徐な3拍子の楽章はサラバンドとされますが、他の拍子指定のない緩徐楽章もあります。

また、これらのソナタは、バロック時代の一般的な器楽作品に見られる声部間の緻密な対位法的相互作用からいくらか距離を置いています。ヴァイオリン独奏パートは、オペラのアリアを思わせるような歌謡的でカンタービレな旋律を表現するように改訂されています。対照的に、バス声部はオリジナルの楽譜からかなり控えめに変更されており、主に和声的な土台としての役割に重点が置かれています。これはバロック音楽によく見られる、バス声部が他のパートと動機的に絡み合う傾向とは異なります。

一方で、この構成はチェンバリストにかなりの解釈の自由度を与えています。当時の習慣として、作曲家は緩徐楽章の旋律線のみを記述し、装飾（パッセージやトリルなど）は演奏家に任せることが一般的でした。しかし、ヴィヴァルディは「マンチェスター」の楽譜の多くの箇所で、かなり詳細な装飾の指示を書き込んでいます。とはいえ、同じセクションが繰り返される場合など、独奏者が自身の解釈を加える余地も十分に保たれています。

曲目リスト

ソナタ第1番ハ長調 RV 3
ソナタ第2番ニ短調 RV 12
ソナタ第3番ト短調 RV 757
ソナタ第4番ニ長調 RV 755
ソナタ第5番変ロ長調 RV 759
ソナタ第6番イ長調 RV 758
ソナタ第7番ハ短調 RV 6
ソナタ第8番ト長調 RV 22
ソナタ第9番ホ短調 RV 17a
ソナタ第10番ロ短調 RV 760
ソナタ第11番変ホ長調 RV 756
ソナタ第12番ハ長調 RV 754

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