マンドリカルド

マンドリカルドは、ルネサンス期イタリア文学における主要な叙事詩、マッテーオ・マリーア・ボイアルドの『恋するオルランド』や、ルドヴィーコ・アリオストによるその続編『狂えるオルランド』をはじめ、『ロドモンテの嫉妬』、『契丹のアンジェリカ』といった派生作品にも登場する架空の重要人物です。彼はタタールの王族にしてサラセン人であり、勇猛な王であったアグリカンを父に持ちます。父がパラディンのローランによって討たれたことを知ると、その復讐を誓い、古代トロイアの英雄ヘクトールの剣であるデュランダルを手に入れるべく冒険の旅に出ます。

彼の人物像は、物語を通して粗暴かつ傲慢な性格として描かれます。特にデュランダルを手に入れてからは、自身の装備する武具の力に過度に慢心するようになり、これが後の悲劇的な結末へと繋がります。最終的には、アストルフォ公爵によって正気を取り戻したローランに代わる主要な敵対者の一人となり、騎士ロジェロとの決闘に敗れて命を落とすことになります。

『恋するオルランド』における描写

物語の初期、『恋するオルランド』第3巻第1章では、マンドリカルドはタタールを専制的に支配する王として登場します。一人の老人から父アグリカンがローランに討たれた事実を知らされると、激しい復讐心に駆られ、老人の勧めもあり、自らの武勇のみでローランを打倒することを決意します。身分を隠し、武器や馬すら持たない素手無武装のままタタールを出国するという、彼の無鉄砲さが際立つ旅立ちでした。道中、アルメニア地方で武器や馬を得ようと泉のそばの天幕に侵入しますが、魔術の炎によって全て焼失してしまいます。泉に飛び込んだ彼が出会った乙女から、近くの城にデュランダルを除くヘクトールの武具が保管されていることを教えられ、その武具を得る勇気があるならば案内すると告げられます。マンドリカルドはその言葉に乗り、ヘクトールの武具を探求する旅を始めます。

第3巻第2章では、武具入手のために与えられた試練に挑みます。捕らえられていたセリカンの王グラダッソとの槍試合に勝利し、巨人や大蛇を倒し、膨大な量の穀物を刈り尽くすといった難業を成し遂げ、ヘクトールの鎧をはじめとする武具を授けられます。この時、妖精の主からデュランダルを手に入れるまでは他の剣を使わないという誓いを立てさせられます。試練を終えたマンドリカルドは、ひとまずタタールへの帰途につきます。

第3巻第3章では、グラダッソと共に旅をする中で、海魔オルクの生贄にされそうになっていた乙女ルキアナを機転を利かせて救出します。その後、アグラマンテとシャルルマーニュの戦闘に遭遇することになります。

第3巻第5章では、ブラダマンテとはぐれたロジェロと出会います。マンドリカルドはロジェロが持つ盾にヘクトールのコート・オブ・アームズである鷲の紋章が描かれているのを見て、その所有権を問いただします。ロジェロから自身がヘクトールの子孫であることを告げられ、逆にマンドリカルドに武具の所有権の根拠を問われます。マンドリカルドはヘクトールの鎧を手に入れた経緯を説明し、盾の所有権を巡って決闘を申し込みますが、剣を持っていない彼を見たロジェロはためらいます。そこにグラダッソが現れ、デュランダルを手に入れる権利は自分にあると主張し割って入るなど、彼を巡る争いが頻繁に発生します。最終的にデュランダルの現保持者であるローランの元へ向かう一行に加わる計画を立てますが、くじ引きで参加できなくなり、単身アグラマンテの野営地へ向かうことになります。

『狂えるオルランド』における描写

『狂えるオルランド』第14歌では、シリアの魔女の城でヘクトールの鎧を手に入れた武勇と、デュランダル以外の剣を使わない誓いが改めて語られます。ローランを追う中で、ロドモンテと結婚予定であったグラナダ王女ドラリーチェの行列を見かけると、その美しさに惹かれ、護衛の力量を試すという名目で襲撃します。護衛を退け、巧みに説き伏せて王女を連れ去るという行動は、彼の傲慢さを示しています。

第23歌で、追っていたローランとついに遭遇し、デュランダルを賭けた決闘を挑みます。しかし、マンドリカルドの乗る馬が暴走したため、決闘は中断されます。

第24歌では、美姫アンジェリカの結婚を知って発狂し、デュランダルや愛馬ブリリアドーロを投げ捨てたローランの装備品を、友人のゼルビンが回収し松の木に立てかけている隙に、マンドリカルドがデュランダルを強奪します。この不当な手段を止めようとしたゼルビンは、マンドリカルドに致命的な攻撃を加えますが、ヘクトールの鎧の魔力によって傷一つ負わせることができませんでした。マンドリカルドはデュランダルでゼルビンを殺害し、イスラム軍の陣営へ戻る途中でローランの名馬ブリリアドーロも奪います。ロドモンテと遭遇し交戦状態となりますが、ここでもヘクトールの鎧に守られ無傷でした。勝敗はつかず、二人はアグラマンテを救出するため休戦します。

第26歌では、女帝マルフィーザと交戦しますが、互いの強力な鎧によって決着がつかず、再びアグラマンテ救出のために休戦します。道中で合流したロジェロの盾の紋章、自らが奪った愛馬フロンティーノ、そしてドラリーチェの扱いを巡ってロジェロと言い争いになり、マンドリカルド、マルフィーザ、ロジェロ、ロドモンテの四人による混戦状態となりますが、これもアグラマンテ救出のために中断されます。この時、マンドリカルドはマルフィーザに好敵手と認められますが、彼女を口説こうとしてあっさりと拒絶されています。

第27歌で、先の四人の協力によりフランス軍の包囲網を突破し、アグラマンテを救出します。しかし、長年デュランダルを求めていたグラダッソがマンドリカルドの持つ剣を見て所有権を主張したことから、イスラム軍内部に不和が生じます。

第29歌で、ついにロジェロとの決闘が始まります。これまでの戦いでヘクトールの鎧がもたらす絶対的な守りの力を確信していたマンドリカルドは、この決闘に勝利できると慢心します。しかし、ロジェロが持つ魔剣ベリサルダは「あらゆる守りを貫通する」という力を持っており、この力の前にはヘクトールの鎧も無力でした。マンドリカルドは脇腹から心臓を貫かれ、致命傷を負います。死の間際、最後の力を振り絞り、デュランダルでロジェロの頭を打ちつけ、頭蓋骨を深く陥没させます。そのまま馬上にて絶命し、彼が奪ったデュランダルやヘクトールの鎧、ブリリアドーロといった装備品はロジェロに奪還されることになります。

『ロドモンテの嫉妬』では、彼にカンドリマンドという弟とセラウラという妹がいたことが語られています。マンドリカルドは、父の復讐と名誉ある武具の探求という目的を持ちながらも、その傲慢さと慢心によって、多くの騎士との間に敵意を生み、自らの破滅を招いた人物と言えます。

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