マンドリル

マンドリル

マンドリル（学名：Mandrillus sphinx）は、オナガザル科マンドリル属に分類される霊長類の一種で、中央および西アフリカ原産の大型のサルです。その最大の特徴は、鮮やかな色彩を持つ顔と臀部の皮膚で、特に雄は赤と青のコントラストが非常に鮮やかです。性的二形が顕著で、雄の方が体が大きく、犬歯も長く、体色も明るいです。

分類と名称

マンドリルは、かつてはヒヒに近いと考えられていましたが、近年の研究ではシロエリマンガベイ属との関連性が高いことが示されています。マンドリル属には、マンドリルとドリルの2種のみが分類されています。

マンドリルという名前は、「man」と「drill」に由来し、「drill」は「ヒヒ」または「類人猿」を意味する西アフリカの言葉です。1744年に初めて記述に登場し、当初はチンパンジーを指していたようです。学名の種小名「sphinx」は「スフィンクス」に由来します。

形態

マンドリルは頑丈な体格をしており、頭部と鼻先が大きく、尾は短く太いです。手足はほぼ同じ長さで、指はヒヒよりも長く、足の親指の対向性が高いです。雄は雌よりも体が大きく、体重は19-30kg程度、雌は10-15kg程度です。最大では54kgに達する個体もいます。雄の犬歯は最大4.5cmにもなり、雌の1cmと比較して非常に長いです。

体毛は主に褐色、灰色、オリーブグリーンで、あごひげは黄色がかったオレンジ色、腹部は白色です。目の上の毛は赤みがかり、唇は白いひげに囲まれています。雄には頭部に長い毛の「冠」があり、胸腺は長い毛で覆われています。顔、尻、生殖器には毛が少ないです。鼻筋は赤く、両側の皮膚は青く溝があります。雄の尻や性器周辺は赤、ピンク、青、紫など多彩な色をしています。

マンドリルは哺乳類の中でも特に色彩が豊かで、その鮮やかな体色は、配偶者間の社会的なコミュニケーションに重要な役割を果たしていると考えられています。青色はコラーゲン繊維の構造色によるもので、赤色は皮下の毛細血管によるものです。

生態

分布と生息地

マンドリルは、カメルーン南部、赤道ギニア、ガボン、コンゴ共和国の一部に生息しています。主に熱帯雨林に生息し、原生林を好みますが、サバンナにも出現することがあります。森林内の草地や、山岳地帯、川の近く、耕作地でも確認されています。ショウガ科やブリランタイシア属などの多年生植物が繁茂する茂みを好みます。

食性

マンドリルは雑食性で、植物を中心に、果物、種子、葉、髄、花、キノコ、昆虫、鳥の卵、カエル、齧歯類、セグロダイカーなどの動物も食べます。特に果物と種子を好み、成体雄は硬い種子も噛み砕くことができます。雨季には果物が豊富な森林で、乾季には森林とサバンナの境界で餌を探します。

社会生活

マンドリルは、数百頭にもなる大きな群れで生活します。これらの群れは安定しており、複数の小さな群れが集まったものではありません。群れは母系で構成され、雌が社会的な結束を維持する上で重要です。成熟した雄は繁殖期に群れに参加し、繁殖期が終わると群れを離れます。優位な雄は群れの中央に、下位の雄は周辺に位置します。雌は雄を追放する力も持っています。雄同士の争いは、発声や表情によって決着することが多いです。

マンドリルは、お互いにグルーミングを行い、社会的な絆を深めます。グルーミングを受ける個体は、よりリスクの高い場所をグルーミングさせる傾向があります。また、道具を使うことも観察されており、飼育下では棒を使って体を掃除することがあります。

繁殖と成長

アルファ雄が最も繁殖に成功し、優位な地位を獲得すると、睾丸が大きくなり、顔や尻が赤くなり、胸腺からの分泌物が増え、体が太ります。繁殖は2年に1回行われ、交尾は主に乾季に行われます。妊娠期間は約175日で、出産は雨季に行われます。幼獣は生後2-3ヶ月で成獣と同じ毛色になり、母親に掴まって育ちます。乳離れは生後約230日で、雌は4-8歳、雄は6歳で群れを離れ始めます。野生下での寿命は12-14年ですが、飼育下では30-40年生きることもあります。

コミュニケーション

マンドリルは、表情や姿勢、発声によってコミュニケーションをとります。威嚇の際には、口を開けてじっと見つめたり、頭を上下に振ったりします。発声には、うなり声、咆哮、ヤック、Kアラームなどがあります。それぞれの発声は、状況や感情に応じて使い分けられます。

人との関わり

マンドリルは、IUCNレッドリストで危急種に指定されています。生息地の破壊と、ブッシュミートを目的とした狩猟が主な脅威です。ガボンはマンドリルにとって重要な生息地ですが、他の地域では生息数が減少しています。ワシントン条約の付属書Iに掲載されており、野生個体の商業取引は禁止されています。日本では、マンドリル属単位で特定動物に指定されているため、愛玩目的での飼育はできません。

マンドリルは、その鮮やかな色彩と社会的な行動、そして絶滅の危機に瀕しているという現状から、生物多様性保全の観点からも重要な動物と言えるでしょう。

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