マーズ・エクスカーション・モジュール

マーズ・エクスカーション・モジュール（MEM）とは

マーズ・エクスカーション・モジュール（MEM）は、1960年代にNASAによって構想された有人火星探査ミッションの中核をなす宇宙船です。このモジュールは、単なる着陸船にとどまらず、火星表面での短期滞在のための居住区、そして地球への帰還を可能にする上昇モジュールを一体化した複合的なシステムとして設計されました。MEMは、火星への有人ミッションを現実のものとするための重要な要素でした。

MEMの多岐にわたる設計

MEMの設計は、単一の概念にとどまらず、ミッションの目的に応じて様々なバリエーションが検討されました。主な目的は、有人での火星着陸、火星表面での短期滞在、そして再び軌道に戻るための上昇の3つを可能にすることでした。しかし、無人の貨物輸送ミッションのために、火星表面に補給物資や実験装置を輸送する降下専用のMEMも考案されました。さらに、通信設備や居住区、実験室を統合した地上施設として機能するMEMも提案され、多目的な活用が想定されていました。

MEMのミッションプロファイル

MEMは、火星軌道ランデブー（MOR）とフライバイランデブーという二つの主要なミッションプロファイルに対応するように設計されました。フライバイランデブーミッションでは、火星表面に約40日間滞在することが想定されていました。一方、MORプロファイルでは、10日から40日間の滞在が可能でした。MEMは、着陸、滞在、上昇の各段階で必要となる機能を統合することで、ミッションの効率化を目指しました。また、火星表面でのローバーのような運用をサポートする貨物輸送用の無人MEMも検討されました。

MEMの具体的な設計案

1960年代初頭、NASAはフィルコ社と契約を結び、1970年代初頭の火星ミッションを見据えたMEMの設計に着手しました。この設計では、2名の宇宙飛行士、1米トンの科学機器、そして40日間の地上活動をサポートすることを基本要件としていました。同時期には、TRW社がエイムズ研究所の契約のもと、重量11.4メートルトンでありながら、地球の10％程度の密度しかない火星大気への対応を考慮したMEMを設計しました。このTRW製MEMは、10日間の火星表面滞在を可能とするものでした。

1964年には、フィルコ・エアロヌトロニック社が、リフティングボディを持つ全長約9.1メートルのMEMを提案しました。この提案では、3名の宇宙飛行士を収容可能な全長約10メートルの機体が想定されていました。機体はコロンビウムとニッケルの合金で構成され、降下ステージが上昇ステージの打ち上げ台として機能するという、アポロ月着陸船と同様の構造でした。

MEM開発の課題

1969年のスペースタスクグループレポートでは、MEMの可能性が議論され、1974年と1978年にそれぞれ開発決定が行われる予定でした。しかし、1965年7月にマリナー4号が火星の大気に関する正確なデータを送り返したことで、リフティングボディやグライダー型の設計の多くが見直されることになりました。これは、マリナー4号によって明らかになった、以前の推定よりも薄い火星大気が、これらの設計を実用的でなくしたためです。

その他のMEM設計案

マリナー4号のデータを受けて、マーシャル宇宙飛行センターのゴードン・ウッドコックは、アポロのような「ガムドロップ」スタイルのデザインを採用したMEMを設計しました。彼は、地球の0.5％しかない火星の希薄な大気を考慮し、モラブと呼ばれる加圧された宇宙飛行士用火星ローバーを搭載した純粋な着陸船の変形も開発しました。他にも、様々な企業や機関がMEMの設計案を提案し、有人火星探査の可能性を模索しました。

結論

MEMは、有人火星探査の実現に向けた重要なステップとして、1960年代に集中的に研究されました。その多岐にわたる設計案は、様々なミッションシナリオに対応するための試みであり、その後の宇宙探査の進展に大きな影響を与えました。

関連事項

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外部リンク

* 火星の希薄な大気のための有人火星探査機の最初の概念（1966年）

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