マービン・ザ・マーシャン

マービン・ザ・マーシャン：小さな火星人、大きな存在感

ルーニー・テューンズを代表するキャラクターの一人、マービン・ザ・マーシャン。わずか数本のオリジナル短編アニメーションへの出演にもかかわらず、その独特の存在感とコミカルな悪役ぶりから、現在に至るまで根強い人気を誇るカルト的なキャラクターです。NASAの火星探査機スピリットとオポチュニティのミニチュアにも彼のイラストが使用されたほどです。

誕生秘話：マンネリ打破の産物

マービンの誕生は、ルーニー・テューンズ作品におけるマンネリ化打破という制作側の苦悩から生まれました。当初、バッグス・バニーとエルマー・ファッドの対決が定番でしたが、やがて新鮮味を失います。そこで、ヨセミテ・サムという新たな敵キャラクターが登場しますが、今度はバッグス・バニー対ヨセミテ・サムという構図がマンネリ化。この状況を打破すべく、アニメ監督チャック・ジョーンズは、静かな物腰と意外な行動のギャップを持つ新たなキャラクターを考案しました。それが、マービン・ザ・マーシャンです。彼は1948年公開の『バニーの宇宙旅行』で、世界にその姿を現しました。

マービンのデザインは、ローマ神話の戦神マルスをモチーフに、蟻のような体型を組み合わせるというユニークな発想から生まれたとされています。しかし、実際には身振り手振りの多いキャラクターとなっています。オリジナル短編では名前すら明かされていませんでしたが（『約一匹ワンちゃん』では「X-2司令官」と呼ばれていました）、後年の人気の高まりを受け、「マービン」という名が付けられました。

声優と日本語吹き替え：多彩な表現

マービンの声を担当した声優陣は、メル・ブランク、ジョー・アラスカイ、ボブ・バーゲン、エリック・ゴールドバーグなど、時代とともに変化してきました。メル・ブランクによる初期の声は鼻にかかったような独特のものだった一方、後期はより標準的な発音に近づいていったとされています。日本語吹き替えでは、中多和宏、小形満、島田敏といったベテラン声優陣が担当し、作品ごとに異なるニュアンスでマービンを表現してきました。特にVHS『バッグス・バニーのブンブンランド Vol.8』収録の『ダフィー・ウォーズ』におけるマービンのセリフは、独特の語尾「ザンス」が特徴的で、中多和宏版とは異なる魅力を持っています。

キャラクター像：火星人にして地球侵略者？

マービンは火星出身という設定ですが、作品内では火星以外の場所にいることが多いです。彼の相棒である火星の犬、K-9も度々登場します。1958年の『マーヴィン・アタック』では、インスタントマーシャンという奇抜なアイテムも使用しています。古代ローマ兵士のような衣装にバスケットシューズを履いた姿、黒い球状の頭部とデッキブラシのようなヘルメットという、独特のいでたちは、バッグス・バニーから「痰壷をかぶったボウリング球」と評されるほどです。「ドカンはどうした？地球が爆発するドカンがしないぞ！」という有名なセリフは、彼の計画の失敗と、そのことに対する苛立ちを象徴しています。

マービンの武器は多岐に渡ります。軟質プラスチック製の泡、エネルギーを放つ銃、物質を分解するピストル、拘束服バズーカなど、地球征服のために様々な道具を駆使しようとします。しかし、多くの場合、バッグス・バニーらによって妨害され、計画は失敗に終わります。彼は金星の観測を妨害するとして、イリジウムPu-36スペース爆破モジュレーター（Eludium Pu-36とも表記される）を使用しようとする場面が多く見られます。この兵器は1000年以上もの歳月をかけて作られたという設定から、マービンの長寿ぶりが伺えます。『ダフィー・ウォーズ』シリーズでは、ダフィー・ダックと惑星の所有権を争うなど、様々なキャラクターとの絡みも見せています。

活躍の場：ルーニー・テューンズを超えて

マービンは、『ダック・ドジャース』、『ベビー・ルーニー・テューンズ』、『タイニー・トゥーンズ』、『Taz-Mania』、『シルベスター&トゥイーティー ミステリー』など、様々なルーニー・テューンズ作品に出演しています。また、ゲームソフト『Taz in Escape from Mars』、『Daffy Duck: The Marvin Missions』、『Bugs Bunny: Lost in Time』、『ロードランナーVSワイリーコヨーテ』などにもボスキャラや雑魚キャラとして登場し、その存在感を示しています。『スペース・ジャム』では審判、『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』ではアクメ社の重要な任務を担うなど、映画作品にも出演しています。さらに、『サウスパーク』、『Drawn Together』、『ザ・シンプソンズ』、『ロジャー・ラビット』といった他作品へのカメオ出演も果たしており、その人気はルーニー・テューンズの枠を超えています。『ゼロ・グラビティ』や『レディ・プレイヤー1』といった作品にも登場しているのは、彼の知名度の高さを物語っています。

実写映画化計画：頓挫した夢

2008年には、マービン・ザ・マーシャンを主役とした実写/CG映画の製作が発表されましたが、残念ながら企画は頓挫しました。クリスマスに地球侵略を企てるも、プレゼントの箱に閉じ込められてしまうというユニークな設定だっただけに、実現していれば大きな話題になったことでしょう。

まとめ：不屈の火星人

このように、マービン・ザ・マーシャンは、その独特のキャラクター性と数々の作品への出演を通して、多くのファンを魅了し続けています。彼の静かな物腰と、地球征服という大胆な野望のギャップ、そして度重なる失敗にもめげない不屈の精神は、これからも多くの人の心を掴み続けることでしょう。

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