マールカンデーヤ・プラーナ

マールカンデーヤ・プラーナは、古代インドの聖典である18大プラーナの一つに数えられています。その名称は、『マハーバーラタ』という有名な叙事詩に登場する聖仙マールカンデーヤに由来します。このプラーナでは、マールカンデーヤが弟子であるクラウシュトゥキに対し、天地創造の過程、マヌの劫期（宇宙の周期）、そして様々な系譜といった神聖な知識を伝授する様子が描かれています。一般的に、このプラーナの成立時期は6世紀から8世紀頃と推定されています。

興味深い点として、マールカンデーヤ・プラーナには、『マハーバーラタ』を補足説明する記述が含まれています。この部分では、『マハーバーラタ』の編纂者であるとされるヴィヤーサ仙の弟子であるジャイミニが、叙事詩の内容をより深く理解するためにマールカンデーヤを訪ね、様々な疑問を呈する場面が描かれています。

特に注目すべきは、インドラ神に関する記述です。この部分では、インドラ神が犯したとされる3つの罪悪、すなわちヴィシュヴァルーパの殺害、ヴリトラとの友情の反故、そしてアハリヤーとの不義密通について言及されています。これらの罪によって、インドラ神は神としての威光、力強さ、そして優美さという3つの重要な徳を失うこととなります。しかし、失われたこれらの徳は、ダルマ、ヴァーユ、アシュヴィン双神という神々の中に宿り、やがてパーンドゥ王の妃たちを通じて、パーンダヴァ兄弟へと受け継がれていくとされています。

このインドラ神に関する記述は、きわめて象徴的で、三機能的解釈にも適しているため、比較神話学の研究においても重要な位置を占めています。成立時期が比較的後代であるにもかかわらず、『マハーバーラタ』よりも古い形態の記述を残している可能性が示唆されており、学術的な関心を集めています。

マールカンデーヤ・プラーナの第81章から第93章にかけては、シヴァ神の妃であるドゥルガー神の物語が詳しく記述されています。中でも、ドゥルガー神がアスラ王マヒシャを退治する場面は、特に有名なエピソードです。この部分は、独立して『デーヴィー・マーハートミャ』として崇敬されており、女神（デーヴィー）崇拝においては根本聖典としての地位を確立しています。この部分は、プラーナの他の部分と比較して、比較的後代の挿入であると推測されています。

さらに、マールカンデーヤ・プラーナには、ハリシュチャンドラ王、ヴィヴァシュチット王、アナスーヤといった歴史上の人物あるいは伝説上の人物にまつわる物語も含まれています。これらの物語は、インドの豊かな歴史や文化、そして宗教観を理解する上で、貴重な資料となっています。

このように、マールカンデーヤ・プラーナは、『マハーバーラタ』への補足説明、インドラ神に関する興味深い神話、女神崇拝の根本聖典『デーヴィー・マーハートミャ』、そして様々な伝説などを含む、内容豊かな聖典です。古代インドの宗教や文化、歴史を研究する上で欠かせない重要な文献と言えるでしょう。

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