ミシア・セール

ミシア・セール：芸術と社交界の女王

ミシア・セール（Misia Sert, 旧姓マリア・ゾフィア・オルガ・ゼナイダ・ゴデプスカ）は、1872年3月30日にロシアのサンクトペテルブルク郊外で生まれました。ポーランド人の彫刻家である父ツィプリアン・ゴデプスキと、ベルギーとロシアの血を引く母ゾフィア・セルヴェの間に生まれました。幼少期から音楽に触れる環境で育ち、特に母方の祖父であるチェリストのアドリアン＝フランソワ・セルヴェの影響を受けました。

幼少期と音楽の才能

ミシアは幼少期をブリュッセルで過ごし、音楽一家であるセルヴェ家のもとで音楽教育を受けました。フランツ・リストなど著名な音楽家が頻繁に訪れる環境で育ち、幼少期からピアノの才能を開花させました。しかし、父の再婚後、パリに移り住み、修道院附属の学校に入れられます。そこで彼女は、ガブリエル・フォーレから週に一度ピアノレッスンを受けることを楽しみにしていました。15歳で家を出てからは、ピアノ教師として生計を立て、自立した生活を送りました。

結婚と芸術サロンの誕生

21歳の時、ミシアはポーランドからの亡命者であるいとこのタデ・ナタンソンと結婚します。ナタンソンはパリの芸術家や知識人の間で知られており、二人の家はマルセル・プルースト、クロード・モネ、ピエール＝オーギュスト・ルノワールなど、多くの文化人が集まるサロンとなりました。夫の創刊した雑誌『ラ・ルヴュ・ブランシュ』は、ナビ派の芸術家たちの作品を紹介し、ミシア自身もそのミューズとして、トゥールーズ＝ロートレックなどのポスターに描かれました。また、マルセル・プルーストはミシアを小説『失われた時を求めて』の登場人物のモデルにしたとされています。

愛と離婚、そして再婚

ナタンソンの雑誌運営には多額の資金が必要となり、ミシアは新聞界の大物であるアルフレッド・エドワーズに接近します。1903年、エドワーズはミシアを愛人とし、ナタンソンとの離婚を条件にスポンサーとなりました。ミシアは1905年にエドワーズと結婚しましたが、彼の不誠実な行動により1909年に離婚しました。1920年には、スペイン人画家のホセ＝マリア・セールと3度目の結婚をし、その後30年以上にわたり文化的仲介者として君臨しました。ミシアのサロンは、エリック・サティがピアノを演奏するなど、多くの芸術家が集まる場所でした。しかし、セールとの結婚生活は感情的に複雑で、夫の浮気や、ミシア自身も夫の愛人と関係を持つなど、複雑な人間関係が繰り広げられました。最終的には離婚に至りました。

ココ・シャネルとの友情

ミシアは、ファッションデザイナーのココ・シャネルとも親交が深く、彼女の愛人アーサー・カペルの死後、感情的な支えとなりました。二人は修道院育ちという共通点もあり、互いに深い理解と信頼で結ばれていました。また、ミシアは困窮した芸術家や友人への支援を惜しまず、詩人のピエール・ルヴェルディの修道院入りを資金援助し、バレエ・リュスのセルゲイ・ディアギレフとは長きにわたり協力関係にあり、財政的支援も行いました。

第二次世界大戦と晩年

第二次世界大戦中のナチス占領下でも、ミシアはパリで生活を続けました。彼女の交友関係の一部は戦時中の行動を疑われましたが、彼女自身は非難を受けることはありませんでした。ミシア・セールは、1950年10月15日にパリで亡くなりました。

大衆文化への影響

ミシアの生涯は、バリー・シンガー作詞、ヴァーノン・デューク作曲のミュージカル『ミシア』の題材にもなっています。この作品はキャストレコーディングとして販売されましたが、舞台化には至っていません。

ミシア・セールは、その生涯を通じて多くの芸術家たちと交流し、彼らの才能を支援しました。彼女は芸術と社交の世界で重要な役割を果たし、その魅力的な個性は今もなお多くの人々を魅了しています。

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