ミシシネワ (AO-59)

USSミシシネワ (USS Mississinewa, AO-59)

アメリカ海軍が運用した給油艦ミシシネワ（AO-59）は、T3-S2-A3タンカー設計に基づいたシマロン級給油艦として建造された一隻です。この艦名を持つ最初の艦として歴史にその名を刻みました。特に注目すべきは、太平洋戦争において、日本の特攻兵器である人間魚雷「回天」によって被害を受けた最初の艦船となった点です。

艦歴

ミシシネワの建造は、1943年10月5日にメリーランド州スパローズ・ポイントにあるベスレヘム・スパローズ・ポイント造船所で開始されました。翌年3月28日に進水し、1944年5月18日にはフィリップ・G・ベック大佐を艦長として正式に就役します。

就役後のミシシネワは、チェサピーク湾で性能確認のための整調航海を実施した後、最初の実任務として西インド諸島のアルバ島へ向かいました。ここで貨物を満載すると太平洋へと針路を取り、7月10日にハワイの真珠湾に到着します。ほどなくして、ウルシー環礁へと前進し、ウィリアム・ハルゼー大将率いるアメリカ第3艦隊の第10補給任務群に編入されました。重要な後方支援を担うことになったミシシネワは、8月25日にマヌス島を出港し、パラオ方面へ進攻するマーク・ミッチャー中将指揮下の第38任務部隊に随伴。洋上での燃料補給に従事しました。9月30日にマヌス島へ帰投して再び燃料を積み込むと、フィリピン反攻作戦に先立ち南西諸島や台湾を攻撃する第38任務部隊に再び随伴します。10月19日にはレイテ島の戦いに参加する艦艇への燃料供給を担いました。タンクが空になったミシシネワはウルシー環礁へ移動し、燃料補給の後、11月上旬にも補給活動を行い、11月15日にウルシーへ帰投。しかし、これが本艦にとって最後の航海となる運命でした。

ウルシー環礁での最期

1944年11月16日、ミシシネワはウルシー環礁で大量の燃料を搭載しました。搭載量は、航空燃料404,000ガロン（約153万リットル）、ディーゼル燃料9,000バレル（約1,400立方メートル）、重油90,000バレル（約14,000立方メートル）に及び、3種の燃料でタンクは満載状態となりました。これは、戦闘機約2,000機、護衛駆逐艦約4隻、駆逐艦約15隻に補給可能な膨大な量でした。

その4日後の11月20日早朝、ミシシネワはウルシー泊地の131番浮標に係留されていました。午前5時47分、艦を激しい爆発が襲います。就寝中だったベック艦長は爆発で跳ね起き、艦の左舷側に火災が発生しているのを見て、直感的に魚雷の命中だと判断しました。しかし、火は急速に燃え広がり、特に大量に積載されていた航空燃料に引火すると、さらに強烈な第二の爆発を引き起こしました。艦の前方からは巨大な炎が立ち上り、風にあおられて火勢は艦の後部へと延焼しようとしていました。約45分後には弾薬にも火が回り、艦を引き裂くかのような爆発が幾度も続きました。近くにいた軽巡洋艦サンタフェに搭載されていた水上機「シーホーク」が緊急発進し、ロープを垂らして海上に逃れたミシシネワ乗組員の救助を行う一幕も見られました。艦全体が約30メートルにも達する大火焔に包まれ、もはや消火は不可能となりました。駆けつけた艦隊曳船による消火活動も甲斐なく、ミシシネワは炎上を続けます。最終的に、63名の尊い命とともに、午前9時28分に横転し、静かに海中に没しました。そのわずか15分後、ウルシー環礁は嵐が過ぎ去ったかのような静寂を取り戻したといいます。

回天による攻撃

ミシシネワがウルシー環礁で補給活動に従事していた頃、日本海軍は秘密兵器「回天」による攻撃計画を進めていました。「菊水隊」と名付けられたこの特攻隊は、1944年11月8日に大津島から3隻の潜水艦（伊36、伊37、伊47）を発進させます。各潜水艦は回天を4基ずつ搭載していました。

このうち、伊47は11月19日にウルシー南方海域に到達し、翌20日の未明3時過ぎに回天を発進させました。回天はマガヤン島とローラン島の間の狭い水路を抜けて泊地に侵入するよう命じられていました。記録によると、4時16分、4時22分、5時7分に爆発音が確認されていますが、最初の爆発は回天がサンゴ礁に衝突して自爆したものと考えられています。残りの2回の爆発の詳細は不明です。一方、伊36からも今西太一少尉が搭乗する回天が発進し、ウルシー環礁東口のムガイ水道を通って泊地侵入を目指しました。伊36から発進した5基の回天のうち、2基はサンゴ礁への衝突で自爆し、2基は敵艦艇の攻撃により沈没したとされています。そして、残る1基がミシシネワを撃沈したと考えられており、この1基は伊47から発進した艇の一つであった可能性が高いとされています。伊36からの今西艇は、ムガイ水道入口付近で駆逐艦の攻撃を受けて沈没した可能性が高いと推測されています。

戦後の発見と「聖なる墓域」

ミシシネワは第二次世界大戦中の功績により、4個の従軍星章を受章しています。

長い時を経て、2001年4月6日、ミシシネワの船体はアメリカの潜水調査チームによってウルシー環礁の海底で再発見されました。ウルシーを管轄するミクロネシア連邦政府は、この歴史的な発見を受けて、ミシシネワの沈没地点周辺を「聖なる墓域」として指定し、一般人の立ち入りを制限する措置を講じました。

しかし、沈没したミシシネワから流出する燃料が海洋環境に悪影響を与える懸念が示唆されました。これを受け、2003年にはアメリカ海軍の主導により、船体内に残存する燃料の抜き取り作業が実施されました。この一連の調査の中で、ミシシネワの右舷側に大きな破孔が存在することが確認されました。これにより、沈没直後にベック艦長が「左舷に魚雷が命中した」と判断していたのは、事実に反する思い違いであったことが明らかになりました。

燃え盛るミシシネワから奇跡的に生還した元乗組員の一人、ジョン・メイヤー氏は、終戦後に戦友たちと共にミシシネワの戦友会を結成し、その幹事として活動しました。回天について調べるうちに、彼は次第に親日家となっていったといいます。ジョンの息子であるマイケル・メイヤー氏もまた、本業の会社経営の傍ら、回天、特に菊水隊に関する資料を精力的に収集しました。日本の研究者や全国回天会会長の小灘利春氏らと連絡を取り合い、回天によるウルシー攻撃に関する戦史をまとめ、書籍として出版しました。実は、ミシシネワの船体調査が実現した背景には、ミシシネワ戦友会が長年にわたり行った地道な活動と運動があったのです。

ミシシネワの沈没は、特攻兵器「回天」による最初の成功例であり、太平洋戦争におけるアメリカ海軍の補給活動がいかに重要であったか、そしてそれが日本軍の攻撃目標となっていたかを如実に示す出来事でした。その海底に眠る船体は、多くの犠牲者とともに歴史の一ページを物語り続けています。

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