ミステリアス・トラヴェラー

『ミステリアス・トラヴェラー』

『ミステリアス・トラヴェラー』（Mysterious Traveller）は、1974年にアメリカ合衆国のエレクトリック・ジャズ・グループ、ウェザー・リポートがリリースした通算4枚目のオリジナル・アルバムです。タイトルの直訳は「謎の旅行者」あるいは「不可思議な旅人」を意味し、その名の通り、バンドの音楽的な探求心と新たな旅立ちを感じさせる作品となっています。

このアルバムは、それまでのウェザー・リポートのサウンドからの顕著な変化を示す重要な節目となりました。初期3作に見られた、より自由でオープンな即興演奏に重きを置いたアプローチに対し、『ミステリアス・トラヴェラー』では楽曲の構成が一層緻密に作り込まれています。これは、バンドが確立された構造の中で、より洗練された演奏を追求し始めたことを示唆しています。

また、本作はエレクトリックベースを効果的にフィーチャーし、ファンクやリズム・アンド・ブルースのリズム、そしてロックの要素を大胆に取り入れた最初のアルバムとしても位置づけられています。この多様なジャンルからの要素の融合は、その後のウェザー・リポートサウンドの核となり、彼らがフュージョン界の頂点へと駆け上がる上で決定的な役割を果たしました。一部では、この時期の作曲面での成果がバンドの全キャリアを通じて最も優れていると評価する声もあります。

『ミステリアス・トラヴェラー』は、批評的にも商業的にも成功を収めました。特に、1974年のアメリカの著名な音楽雑誌『ダウン・ビート』の読者投票においては、「アルバム・オブ・ザ・イヤー」に輝いています。これは、ウェザー・リポートが総合部門でこの栄誉を獲得した2度目の事例であり、当時の彼らがいかに広く認知され、高い評価を得ていたかを物語っています。

このアルバムが制作された時期は、バンドのメンバー構成にも変化が見られました。ベーシストのミロスラフ・ヴィトウスにとっては、ウェザー・リポートにおける最後の参加作品となりました。彼の脱退後、ベースのポジションは後にバンドのサウンドを支えることになるアルフォンソ・ジョンソンに引き継がれます。ジョンソンは本作にも参加しており、ヴィトウスとジョンソンの二人のベーシストがクレジットされている点も特筆すべきでしょう。

また、ドラマーとしてイシュマエル・ウィルバーンが新たにラインナップに加わりました。前作『スウィートナイター』発表後のツアーでは、元スライ＆ザ・ファミリー・ストーンのグレッグ・エリコがドラムを担当していましたが、彼はレギュラーメンバーとしての加入オファーを辞退しています。ウィルバーンに加え、スキップ・ハデンも特定の楽曲でドラムを演奏するなど、リズムセクションも多様な顔ぶれとなっています。パーカッションにはドン・ウン・ロマンが参加し、サウンドに彩りを添えています。

さらに、本作では多くのゲストミュージシャンが迎えられています。パーカッショニストのレイ・バレットやムルガ・ブーカーをはじめ、ティンパニ、オカリナ、タブラといった様々な楽器奏者、さらにはコーラスをフィーチャーした楽曲も収録されており、ウェザー・リポートの核となるメンバー（ジョー・ザヴィヌル、ウェイン・ショーター、そしてアルフォンソ・ジョンソンら）による演奏を、豊かなサウンドパレットで補強しています。

『ミステリアス・トラヴェラー』は、単なる一作品に留まらず、ウェザー・リポートが実験的なジャズフュージョンバンドから、より大衆的なアピール力を持つグループへと変貌を遂げる過程を示す重要なドキュメントです。その革新的なサウンドと高い音楽性は、今日のジャズやフュージョン、さらには他のジャンルのアーティストにも多大な影響を与え続けている、まさに不朽の傑作と言えるでしょう。

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