ミセヌム

ミセヌム（ラテン語: Misenum）は、イタリア南部のナポリ近郊、ナポリ湾北西部の岬に位置する、ローマ時代からの歴史を持つ港町です。現代イタリア語ではミゼーノ（Miseno）と呼ばれ、カンパニア州ナポリ県バーコリに属する分離集落（フラツィオーネ）となっています。

神話と歴史

ミセヌムの地名は、神話に登場する人物ミセヌスに由来すると伝えられています。彼はヘクトールの仲間であり、アイネイアースを称賛した人物でした。ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』によれば、ミセヌスは海の神トリトンとのトランペット競争の後、この地近くの海で溺死したとされています。

歴史的には、紀元前39年に共和政ローマの三頭官であったオクタウィアヌス（後の皇帝アウグストゥス）と、セクストゥス・ポンペイウスがミセヌムで停戦協定（ミセヌム協定）を結んだ地として知られています。

ローマ海軍の拠点

古代ローマ時代、ミセヌムはローマ海軍最大の軍港として重要な役割を果たしました。港内に設けられた「ユリウス港（ポルトゥス・ユリウス）」は、ローマ海軍で最も重要な艦隊である「ミセヌム艦隊」（クラッシス・ミセネンシス）の母港でした。この軍港としての機能は、アウグストゥスの腹心であったマルクス・ウィプサニウス・アグリッパによって整備されました。

ローマの別荘地

ミセヌムはその風光明媚な立地から、プテオリ（現：ポッツオーリ）やネアポリス（現：ナポリ）に近いこともあり、ローマの別荘地としても栄えました。ローマ帝国第2代皇帝ティベリウスは、ミセヌム近郊の別荘で亡くなったと伝えられています。

プリニウスの死

ガイウス・プリニウス・セクンドゥス（大プリニウス）は、79年にミセヌムのローマ海軍艦隊担当として赴任していました。彼はミセヌムからナポリ湾を挟んだ場所に位置するウェスウィウス（現：ヴェスヴィオ）山の噴火を目撃しました。プリニウスは噴火の被災者救出のためにウェスウィウス山へ向かいましたが、その後の噴火に巻き込まれて命を落としました。この時の状況は、当時ミセヌムに住んでいた甥のガイウス・プリニウス・カエキリウス・セクンドゥス（小プリニウス）によって詳細に記録されています。

もう一度検索