ミッドナイト・ビリーヴァー

ミッドナイト・ビリーヴァー (Midnight Believer)

『ミッドナイト・ビリーヴァー』は、キング・オブ・ブルースと称されるアメリカ合衆国の伝説的ギタリスト兼シンガー、B.B.キングが1978年に世に送り出したスタジオ録音盤です。

本作が彼のキャリアにおいて特異な位置を占める理由の一つは、クロスオーバー・ジャズ／フュージョンの分野で活躍していた著名なバンド、ザ・クルセイダーズの主要メンバーが制作に深く関わっている点にあります。ジョー・サンプル（キーボード）、ウィルトン・フェルダー（ベース、サックス）、スティックス・フーパー（ドラムス）といった彼らの参加は、B.B.キングが長年培ってきたブルース・スタイルに、当時隆盛を極めていたフュージョンやソウル、ファンクのエッセンスをもたらしました。この異色の組み合わせは、アルバムのサウンドにコンテンポラリーで洗練された響きを与えています。

収録曲は、主にウィル・ジェニングスとジョー・サンプルの共作によるものが中心ですが、アルバムを代表する一曲である「ネヴァー・メイク・ア・ムーヴ・トゥー・スー ン」は、ジェニングスとスティックス・フーパーの共作です。この楽曲には、ザ・クルセイダーズが過去に発表したインストゥルメンタル曲「グリージー・スプーン」からのフレーズが引用されており、両者の音楽的融合を象徴する聴きどころとなっています。他にも、「ホエン・イット・オール・カムズ・ダウン（アイル・スティル・ビー・アラウンド）」、「ミッドナイト・ビリーヴァー」、「アイ・ジャスト・キャント・リーヴ・ユア・ラヴ・アローン」といった楽曲が収録されており、B.B.キングの円熟したボーカルとギター、そしてザ・クルセイダーズ由来のリズムセクションやホーンアレンジが一体となったサウンドを聴くことができます。

本作は、発表当時の商業的な成功も収めています。アメリカの主要アルバムチャートであるBillboard 200では最高124位を記録しましたが、より専門分野に近い『ビルボード』のR&Bアルバムチャートでは27位に達しました。シングルカットされた楽曲もチャートインしており、「ネヴァー・メイク・ア・ムーヴ・トゥー・スー ン」はR&Bシングルチャートで19位と健闘し、「アイ・ジャスト・キャント・リーヴ・ユア・ラヴ・アローン」も同チャートで90位を記録しています。

批評家からの評価としては、オールミュージックのBill Dahlが5点満点中3点を付け、本作を「キングとザ・クルセイダーズが、少々ファンキー、そしてコンテンポラリーなスタイルで混ざり合っている」と評しています。これは、従来のブルースの枠を超えたサウンドプロダクションに対する評価と言えるでしょう。また、アルバムリリースから時を経て、その評価は再確認されています。『ローリング・ストーン』誌が2015年に企画した「B.B.キングの最も偉大な10曲」という特集において、本作から「ネヴァー・メイク・ア・ムーヴ・トゥー・スー ン」が選出されており、この楽曲がB.B.キングの数ある名曲の中でも特に重要な位置を占めることが示されています。

本作のレコーディングには、B.B.キング（ボーカル、ギター）を中心に、ザ・クルセイダーズの中核メンバーであるジョー・サンプル（キーボード）、ウィルトン・フェルダー（ベース、テナー・サクソフォーン・ソロ）、スティックス・フーパー（ドラムス）らが参加。さらに、ディーン・パークス、ロナルド・バウティスタ（リズムギター）、ロバート・ポップウェル、ジェイムス・ガドソン（ドラムス）といった実力派セッションミュージシャン、そしてホーン・セクションやバックグラウンド・ボーカル隊がサウンドを彩っています。

『ミッドナイト・ビリーヴァー』は、ブルースの伝統を守りつつも、当時の最先端のサウンドを取り入れ、新たな音楽的可能性を追求したB.B.キングの挑戦的な一面を示す作品として、今日でも価値を持っています。ザ・クルセイダーズとの邂逅が生んだ、ブルースとフュージョンの心地よい融合を体験できる一枚と言えるでしょう。

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