ミニマル・アート

ミニマル・アートは、装飾的要素や説明的な部分を極限まで削ぎ落とし、シンプルな形と色を用いた表現を追求する芸術運動です。1960年代にアメリカを中心に展開し、特に彫刻や絵画の分野で顕著な影響を与えました。この運動は、抽象表現主義の過剰な装飾性や感情的な表現に対する反発として生まれ、抽象美術の本質的な純粋さを徹底的に突き詰めることを目指しました。

ミニマル・アートの特徴

ミニマル・アートは、その名の通り「最小限」を追求します。作品から余分な要素を排除し、純粋な形態、素材、そして空間との関係性を重視します。具体的には、以下のような特徴が挙げられます。

単純な幾何学的形態の反復: 円、四角、直線などの基本的な形状を繰り返して構成します。
工業的な素材の利用: 鉄鋼、コンクリート、合板など、工業製品に用いられる素材をそのまま使用したり、工業的な加工を施した素材を多用します。
手仕事性の排除: 作家の個人的な感情や技術を作品からできる限り排除し、無機質で客観的な印象を与えます。
展示空間との関係性の重視: 作品単体ではなく、展示される空間全体を含めた環境を考慮して制作されます。

ミニマル・アートの先駆者

ミニマル・アートの成立には、先行する様々な芸術運動や思想の影響が見られます。

コンスタンティン・ブランクーシ: 特に彫刻作品『無限柱』は、カール・アンドレに大きな影響を与えました。単純な形態の反復や素材の持つ力を引き出す点において、ミニマル・アートの先駆的な要素が見られます。
ロシア構成主義: ロトチェンコなどの作品にも、ミニマルな表現のルーツを見出すことができます。幾何学的な形態や工業的な素材の利用は、ミニマル・アートに大きな影響を与えました。
ネオ・ダダイズム: ジャスパー・ジョーンズの作品、特に星条旗の絵画は、フランク・ステラに反復するストライプのモチーフを提供するなど、ミニマル・アートの発展に貢献しました。

また、工業デザインや近代建築のデザインも、ミニマル・アートの形成に影響を与えた要素として見逃すことはできません。

ミニマル彫刻

ミニマル彫刻は、作品そのものだけでなく、展示空間との関係性を重視します。作品が展示されるギャラリーや美術館の広さ、高さ、採光などを考慮し、作品と空間が一体となるような展示方法が採用されます。この空間との関係性を重視する考え方は、後のインスタレーションという芸術表現に繋がっていきました。また、素材の溶接や接着は行われず、素材そのものの特性を活かしたシンプルな構成が多いのも特徴です。

代表的な彫刻家としては、カール・アンドレが挙げられます。彼は、金属プレートやレンガを床に並べたり、枕木を積み上げるなど、工業的な素材をそのまま用いた作品を制作しました。また、ドナルド・ジャッドは、着色された金属やステンレスを用いた立体作品を制作し、それらを「スペシフィック・オブジェクト」と呼び、彫刻よりも絵画に近い存在だと主張しました。彼は、手仕事性を排除するために、設計図を作成し、金属加工工場に制作を発注するような方法をとっています。

ミニマル絵画

ミニマル絵画の代表的な画家であるフランク・ステラは、ヨーロッパの伝統的な絵画における均衡や構図といった概念を否定し、単純なストライプの反復をモチーフとしました。また、作品の形状自体が作品のイメージを形成する「シェイプド・キャンバス（変形キャンバス）」という手法を考案し、ミニマル絵画の新たな方向性を示しました。

関連事項

ミニマリズム
フランク・ステラ
ドナルド・ジャッド
カール・アンドレ
ロバート・モリス
ダン・フレイヴィン
ソル・ルウィット
ロバート・スミッソン
リチャード・セラ
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ブルース・ナウマン
ポップアート
ピエールイジ・マンチーニアート
スサナ・ソラノ
ルイス・ゴルディージョ

参考文献

第4回ミニマル・アート
自律性から関係性へ
フランク・ステラ《不整多角形》シリーズ―ドローイングと複製の問題再考―

外部リンク

ポップ・アートとミニマル・アート

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