ミャオ族

ミャオ族：山岳地帯に生きる多様な民族

ミャオ族は、中国南部を主な居住地とする少数民族です。中国国内では800万人以上が暮らしており、チワン族、満州族、回族に次ぐ人口規模を誇ります。しかし、ミャオ族の分布は中国国内にとどまりません。タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナムなど、東南アジアの山岳地帯にも、同系統の言語を話す人々が広く暮らしています。

名称とアイデンティティ

「ミャオ族」という名称は、漢民族による他称であり、ミャオ族自身の呼び名ではありません。中国国内ではこの名称が用いられていますが、時に差別的なニュアンスを含むため、近年は「ミャオ/モン」の併記も増えています。中国国外では、主に自称である「モン (Hmong)」が用いられています。ただし、「モン」にも様々な支族があり、歴史的・文化的背景は多様であるため、東南アジア研究などでは、必ずどのグループを指すのか明確にする必要があります。 また、古代のハリプンチャイ王国を築いたモン族とは異なる系統の人々です。

歴史と起源

ミャオ族の起源については諸説ありますが、確固たる歴史的証拠は不足しています。古代中国の文献に記される「三苗」や「武陵蛮」との関連性を主張する説もありますが、現在のミャオ族との直接的な連続性を証明する史料はありません。宋代以降、漢民族の南下によって揚子江流域から山岳地帯へ移動したという説が有力ですが、その過程は未だ不明な点が多く残されています。

1990年代以降、ミャオ族の祖先を古代中国の伝説的英雄である蚩尤とする説が台頭しました。これは、中国の民族統合政策への反発として、ミャオ族の知識人によって提唱されたものです。しかし、蚩尤とミャオ族の関連性を裏付ける史料は存在せず、学問的には否定されています。文字を持たず、口頭伝承によって歴史を伝えてきたミャオ族にとって、歴史認識は流動的で、民族意識の高まりとともに新たな歴史叙述が形成されていく過程にあります。

明・清時代には、中国政府による間接統治（土司制度）のもと、ミャオ族の反乱が頻発しました。清代には改土帰流政策が実施され、漢民族の移住が進み、ミャオ族は弾圧を受けました。18世紀から19世紀にかけて大規模な反乱も起こり、ミャオ族社会に大きな影響を与えました。

中国国内のミャオ族

中国国内のミャオ族は、主に貴州省、湖南省、雲南省などに居住し、山間部の斜面や盆地などに集落を形成しています。生活様式は地域によって異なり、焼畑農業を営む移動性の高いグループと、棚田を利用した水稲耕作を行う定着性の高いグループが存在します。

中国政府による民族識別調査の結果、現在の「苗族」は、様々なグループが一つの民族として分類されたものであり、政治的・社会的な側面も考慮する必要がある点が指摘されています。言語的には、ミャオ・ヤオ語族に属し、大きく3つの方言集団に分けられます。また、黒苗、白苗、青苗、紅苗、花苗など、女性の衣装の色や文様によって分類されることもあります。

インドシナ半島におけるミャオ族

焼畑農業による移動や、中国での弾圧を逃れるため、19世紀以降、多くのミャオ族（モン族）がラオス、ベトナム、タイ、ミャンマーへと移住しました。特にラオスでは、ベトナム戦争中にはCIAの支援を受けたグループも存在し、複雑な歴史的経緯があります。戦争終結後、多くのミャオ族がタイに逃れ、難民キャンプが形成されるなど、大きな問題となっています。また、近年はアメリカ、フランス、オーストラリアなどへの移住も増加しています。

言語、宗教、文化

ミャオ族は独自の言語を持ち、ミャオ・ヤオ語族に属します。宗教的には、アニミズム的な精霊信仰が根強く、自然物や祖霊を崇拝する祭祀が盛んです。特に貴州省の黔東南地方の祭祀は有名です。また、華麗な衣装や独特の音楽、踊りなども特徴です。近年は、中国政府による民族観光への活用など、文化の商品化が課題となっています。

タイのミャオ族の精霊信仰

タイのミャオ族も、精霊信仰を基盤とした独自の宗教観を持っています。陰界、陽界、天界という三界構造の世界観を持ち、様々な精霊を崇拝し、シャーマンによる儀礼が重要な役割を果たしています。洪水神話や射日神話などの神話も伝えられています。

日本との関連性

鳥居龍蔵による調査では、ミャオ族の衣服や銅鼓に、日本の銅鐸と類似した文様が発見されており、両者の何らかの関係性が示唆されています。また、洪水神話などの神話にも類似点が見られますが、遺伝学的な証拠は必ずしも明確ではありません。

食文化

ミャオ族の食文化は、米を主食とし、野菜、肉、魚などを用いた様々な料理があります。「酸湯」はミャオ族独特の料理と言えるでしょう。祭事や祝い事にはもち米を使った餅や酒が用意され、盛大な宴が行われます。

人口と自治地域

ミャオ族の人口は、中国国内だけで数百万人に達し、中国各地に自治州、自治県、民族郷などが設置されています。しかし、その実態は複雑で、中国政府の民族政策との関連において、多角的な視点からの理解が必要です。

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