ミャンマーの国家顧問

はじめに

ミャンマーの国家顧問（ビルマ語: နိုင်ငံတော်၏ အတိုင်ပင်ခံပုဂ္ဂိုလ်、英語: State Counsellor of Myanmar）は、かつて同国政府内に存在した重要なポストである。この役職は、2011年に廃止された首相の職務と多くの点で共通しており、しばしばその代替と見なされた。日本政府の外務省は、この役職を「国家最高顧問」と呼称することがあった。その設立は特定の政治的背景によるものであり、後の2021年の軍事クーデターによってその地位は大きく揺らぐことになる。

創設の経緯

国家顧問という役職が誕生したのは、2015年11月の総選挙で地滑り的な勝利を収めた国民民主連盟（NLD）が政権を担うことになった際のことである。NLDを率いるアウンサンスーチー氏は、憲法の規定により大統領に就任することが不可能であった。これは、彼女の亡き夫と二人の息子が外国籍（イギリス国籍）を持っていたためである。当初、彼女が政府内で公的な役職に就かない可能性も取り沙汰されたが、結果として新政権内での実質的な権限を付与するため、国家顧問という新しい役職を設ける方針が固まった。この役職を設置するための法案は国会で審議され、2016年 4月1日に民族代表院（上院）、同年4月5日には人民代表院（下院）でそれぞれ可決された。そして、当時のティンチョー大統領が翌4月6日に法案に署名し、正式に国家顧問職が創設された。国会での審議中、特に議席の4分の1を占める軍人議員からは、この新しい役職の設置が憲法に違反するとの批判も出されたが、与党であるNLDの圧倒的な議席数を背景に、法案は賛成多数で成立に至った。

役割と責任

国家顧問に与えられた権限と責任は多岐にわたる。必要に応じて予算に関する事項や各種の会議を招集する権限を有しており、また国会の運営に関して政府として助言を与える責務を担っていた。その職務範囲は行政のほぼ全ての分野に及び、大統領と国会の間の調整役としても機能したため、その役割はかつての首相職と非常に類似していた。ミャンマーの憲法では、国会議員が大臣に就任した場合、議員の資格を失うことが規定されている。しかし、国家顧問のポストに就くことで、国会議員としての地位を維持したまま、行政の中心的な役割を担い、引き続き立法活動に参加することが可能となるという利点があった。国家顧問の任期は、大統領と同じく5年間と定められていた。

2021年軍事クーデター以降

2021年2月1日にミャンマーで軍事クーデターが発生し、アウンサンスーチー氏が軍によって身柄を拘束されると、国家顧問の職務は事実上停止された。その後、軍が主導する統治組織である国家行政評議会は、同年2月19日付で国家顧問府を廃止することを決定し、これをもって国家顧問職も軍政側からは存在しないものとされた。一方、クーデターに反対する国民民主連盟を中心とした勢力は、連邦議会代表委員会（CRPH）を結成し、国家顧問職の正当な存続を主張した。CRPHは2月9日には国家顧問に関する既存の法律に基づき、アウンサンスーチー氏の任期が延長されたと発表した。さらに3月9日には、CRPHが組織した臨時内閣において副大統領代行に選ばれていたマン・ウィン・カイン・タン氏が、国家顧問の職務を代行すると宣言した。その後、4月16日に発足した国民統一政府（NUG）も、自身らの定めた「連邦民主憲章」に基づき、首相職と並んで国家顧問職を設置し、再びアウンサンスーチー氏を国家顧問とする人事を公表した。しかし、アウンサンスーチー氏が軍の拘束下にある状況は変わらず、NUGにおける国家顧問のポストは、現時点では名目上のものとなっている。このように、2021年のクーデター以降、ミャンマーの政治情勢の分裂に伴い、国家顧問という役職の扱いも軍政側と反軍政側で大きく異なっているのが現状である。

歴代の国家顧問

国家顧問の職に就いたのは、初代にして唯一の人物であるアウンサンスーチー氏のみである。

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