ミャンマー難民

ミャンマー難民とは、長年にわたる国内の民族紛争や軍事政権による人権侵害、迫害などを原因として、国外へ避難し難民となった人々を指します。これらの人々は、政治的な理由で難民として認定される場合と、そうではない場合があります。

概要

ミャンマー（旧ビルマ）の難民問題は、19世紀初頭からのイギリスによる植民地支配にその根源をたどることができます。イギリスはビルマを段階的に併合し、英領インドの一州としました。この支配下で、イギリスは多数派のビルマ族を抑圧し、キリスト教を受け入れたカレン族などを官吏や警察に登用することで、民族間のヒエラルキーを逆転させ、後の対立の火種をまきました。

第二次世界大戦中、日本軍と連携したビルマ独立義勇軍がイギリスから権力を奪取しましたが、終戦後、アウン・サンらが率いる反ファシスト人民自由連盟が日本に対し蜂起しました。1948年に「ビルマ連邦」として完全独立を達成しましたが、翌年にはカレン族が独立闘争を本格化させ、国内は内戦状態に突入しました。1962年のネ・ウィン将軍によるクーデターで議会制民主主義は終わりを告げ、社会主義体制へと移行しました。この軍事政権下で、多くの少数民族は不満を募らせ、武装蜂起しましたが、軍部の圧倒的な力に抗えず、次第に国外への流出を余儀なくされ、難民化していきました。

現在のミャンマー難民の多くは、地理的に隣接する国々へ避難しています。東部に居住していたカレン系やカレンニー系の人々は、主にタイへ流出し、国境沿いに設けられた9箇所の難民キャンプで10万人以上が保護されています（2010年時点）。これらのキャンプでは、最大のメーラー・キャンプなど、カレン系が多くを占めるキャンプと、カレンニー系が中心のキャンプに分かれています。タイ当局はこれらの難民を「偽装難民」や「移住労働者」と見なし、強制送還を行うこともあり、アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチなどの国際人権団体やUNHCRからしばしば批判を受けています。

西部に多いイスラム系少数民族であるロヒンギャの人々は、陸路でバングラデシュへ、海路でマレーシア、インドネシア、タイなどへ、空路でサウジアラビアやアラブ首長国連邦などのイスラム圏へ避難する傾向があります。バングラデシュへ逃れたロヒンギャ難民は、過去にも十万人規模で発生しましたが、同国政府は受け入れに消極的で、多くが送還されました。この他、NCGUBの報告によれば、チン州からはインドへ、カチン州からは中国へ避難した人々も存在します。

難民支援は、タイにおいてはCCSDPT（19のNGOによるネットワーク）やUNHCRが現地事務所を設置して対応しています。日本のNGOであるシャンティ国際ボランティア会は、難民キャンプ内で図書館事業などを展開しています。

主要な民族グループと避難の状況

モン族: 18世紀にビルマ族の王朝に征服された際、多くのモン族がタイへ避難した歴史があります。タイ族と文化的に類似する点が多く、同化が進んでいます。
カレン族・カレンニー族: それぞれ独自の軍事部門を持ち、ミャンマー東部やタイ国境沿いで分離独立運動を続けています。タイの難民キャンプの大多数を占めますが、一部の仏教徒系武装勢力は軍政側につくなど、一枚岩ではありません。
* ロヒンギャ: 主にラカイン州（旧アラカン州）に居住するイスラム系民族。歴史的に市民権が認められず、宗教的・民族的迫害や強制労働の対象となり、バングラデシュなどを中心に大量の難民が発生しています。他の民族グループと比較しても、より過酷な状況に置かれることが多いとされます。

第三国定住と帰還の動き

アメリカをはじめとする難民条約加盟国は、タイなどに避難しているミャンマー難民に対し、第三国への再定住の機会を提供しています。日本も2010年から2012年にかけて、パイロットケースとしてメーラー・キャンプから年間30人をめどに受け入れました。しかし、受け入れた難民の日本社会への適応には多くの困難が伴い、辞退者も出るなど、第三国定住の難しさと限界が浮き彫りとなりました。これは、難民に対する人類学的な知見の不足や、受け入れ側の政府による支援体制（特にNGO連携や心理的ケア）の不備が要因として指摘されています。

一方、2011年にミャンマーが軍政から民政（共和制）に移行したことを受け、ミャンマー政府は国外に避難した国民に帰国を呼びかけ始めました。大量の難民を抱えるタイ政府もこれに応じ、難民の帰還に向けた動きが見られるようになっています。タイには過去にラオスからの難民を帰還させた実績があり、今後の動向が注目されます。

ミャンマー難民問題は、複雑な歴史的背景と多様な民族構成、そして周辺国の対応や国際社会の支援、再定住プログラムの課題など、様々な要因が絡み合った人道問題であり、その解決には多角的なアプローチが求められています。

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