ミヤマカラマツ(深山唐松)とは
ミヤマカラマツ(
学名:
Thalictrum tuberiferum)は、
キンポウゲ科カラマツソウ属に分類される多年草です。その名の通り、深山に生息し、美しい白い
花を咲かせることで知られています。
特徴
ミヤマカラマツは、以下のような特徴を持っています。
根: ひげ状、または紡錘状に肥厚し、しばしば匍匐枝を出します。
茎: 直立し、細い円柱形で、高さは10~80cmになります。上部で2~3回分枝するか、分枝しないこともあります。
茎には通常毛がありませんが、まれに開出毛や短腺毛が生えることがあります。
葉: 根出葉は通常1個、ときに2個あります。葉柄は7~25cmで、葉身は2~3回3出複葉です。小葉は狭卵形から広卵形、または広倒卵状菱形で、長さ1~8cm、縁には粗い鋸歯があります。裏面は灰白色をしています。茎葉は2~3個互生し、1~2回3出複葉か、上部では単葉になることがあります。葉柄は短いか無柄で、托葉はありません。
花:
花期は5~8月で、
茎先や葉腋から散房状に
花序がつきます。
花は径8mm程度で、白色または淡紅色を帯びています。
萼片は楕円形で、白色で裏面が紫色を帯びることがあります。
花弁はなく、雄しべは多数あり、雌しべは数個あります。
果実: 果実は三日月形の痩果で、2~7個つき、扁平で両側に3脈があります。基部には細い果柄があります。
分布と生育環境
ミヤマカラマツは、日本では南千島、北海道、本州、四国、九州に分布しています。温帯林の湿り気のある林縁、林床、渓谷の湿った岩上、ときに高山草原などに生育します。国外では、朝鮮半島、中国大陸東北部、ロシア沿海地方にも分布しています。
名前と由来
和名の「ミヤマカラマツ」は、「深山に生えるカラマツソウの仲間」という意味です。古くからある名前で、江戸時代の文献にも記録されています。種小名のtuberiferum
は、「塊茎のある」という意味です。
種の保全状況評価
ミヤマカラマツは、環境省のレッドデータブックには掲載されていませんが、多くの都道府県で絶滅危惧種に指定されています。地域によっては、その保護が重要となっています。
各都道府県の指定状況
茨城県: 準絶滅危惧
三重県: 絶滅危惧II類(VU)
滋賀県: 絶滅危惧増大種
兵庫県: Bランク
奈良県: 希少種
鳥取県: 絶滅危惧II類(VU)
広島県: 絶滅危惧II類(VU)
徳島県: 絶滅危惧IB類(EN)
福岡県: 絶滅危惧IA類(CR)
熊本県: 絶滅危惧IA類(CR)
大分県: 絶滅危惧II類(II)
宮崎県: 絶滅危惧IB類(EN-r,g)
下位分類
ミヤマカラマツには、以下の下位分類があります。
フジイロミヤマカラマツ (
Thalictrum tuberiferum f. lavanduliflorum):
萼片が藤色になる品種で、
福井県武生市がタイプ標本の採集地です。
ヤクシマカラマツ (Thalictrum tuberiferum var. yakusimense
):茎の高さが5-20cmと低く、小葉が円形である特徴があります。屋久島の特産種で、環境省の絶滅危惧II類に指定されています。
ミヤマカラマツと似た種にカラマツソウ(Thalictrum aquilegiifolium var. intermedium
)がありますが、以下の点で区別できます。
托葉: ミヤマカラマツには
茎葉の基部に托葉がないが、
カラマツソウには目立つ托葉がある。
花糸: ミヤマカラマツの花糸は棍棒状だが、カラマツソウの花糸は細長く葯と同じ幅である。
葯: ミヤマカラマツの葯は白色だが、
カラマツソウの葯は黄白色である。
痩果: ミヤマカラマツの痩果は2-7個で三日月形だが、カラマツソウの痩果は7-15個で楕円状である。
生育環境: ミヤマカラマツは湿り気のある場所に生育するが、
カラマツソウは日当たりの良い草地に生育する。
参考文献
佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本II離弁花類』、1982年、平凡社
門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く
花(増補改訂新版)』、2013年、山と溪谷社
清水建美編・解説、門田裕一改訂版監修、木原浩写真『山溪ハンディ図鑑8 高山に咲く花(増補改訂新版)』、2014年、山と溪谷社
大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生
植物 2』、2016年、平凡社
牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants
和名−
学名インデックス」(YList)
日本のレッドデータ検索システム
飯沼慾斎 草木図説前編20巻(10)、ミヤマガラマツ、コマ番号49/66、国立国会図書館デジタルコレクション
外部リンク
*
ミヤマカラマツ(深山唐松) – コトバンク