ミュンヘン美術院

ミュンヘン美術院（Akademie der Bildenden Künste München）は、ドイツを代表する美術学校の一つであり、その歴史は18世紀にまで遡ります。1808年、バイエルン王国のマクシミリアン1世によって正式に設立されましたが、その前身となる美術学校は1770年以前に選帝侯マクシミリアン3世ヨーゼフによって創設されていました。当初は「Zeichnungs Schule respective Maler und Bildhauer academie」という名称で、絵画と彫刻の教育機関としての役割を担っていました。

1808年に王立美術院として再編された際、初代校長にはデュッセルドルフ美術アカデミーからヨハン・ペーター・フォン・ランガーが迎えられ、事務局長には哲学者フリードリヒ・シェリングが就任しました。1824年には、ペーター・フォン・コルネリウスが校長を継ぎ、その後1868年にはミュンヘン王立工芸学校も設立されました。美術院は、美術家の育成機関としての役割に加え、画家協会としての機能も持ち合わせるようになり、マックス・ヨゼフ・ヴァーゲンバウアーをはじめとする「ミュンヘン派」と呼ばれる画家集団が形成されました。ミュンヘン派は、地域に根ざした風景画を中心に活動しました。

ミュンヘン美術院は、1852年から1920年の間、女性の入学を認めていませんでしたが、ミュンヘン王立工芸学校は1872年から一部学科で女性の入学を許可しました。1882年には、女性芸術家の教育を目的としたミュンヘン芸術家協会が女子美術学校を設立しました。19世紀半ばには、ミュンヘン美術院は国際的に高い評価を得るようになり、フランツ・デフレガー、フランツ・フォン・シュトゥック、アドルフ・フォン・ヒルデブラント、ルートヴィヒ・シュヴァンターラーといった著名な教授陣が教鞭を執り、フランツ・フォン・レンバッハなどの画家がここで学びました。

特にヴィルヘルム・フォン・カウルバッハ、カール・フォン・ピロティ、ニコラオス・ギジスらが教鞭を執った時代は「黄金時代」と呼ばれ、多くの重要な画家がミュンヘン美術院で学びました。しかし、第一次世界大戦後のバイエルン・レーテ共和国の成立などによる混乱は、美術院の重要性を急速に低下させました。ナチス時代には、カール・カスパーなどの教授がナチスの圧力によって退職を余儀なくされました。しかし、ミュンヘン美術院はその後も美術教育機関として重要な役割を果たし続け、2005年には、コープ・ヒンメルブラウ設計の新しい校舎が建設されました。

著名な卒業生や教員には、フランツ・フォン・シュトゥック、ワシリー・カンディンスキー、パウル・クレー、フランツ・マルク、フランツ・フォン・レンバッハなどがいます。また、日本人卒業生としては、原田直次郎、赤木範陸などが知られています。

ミュンヘン美術院は、その長い歴史の中で、常に変化する社会と芸術の動向に対応し、芸術教育の発展に貢献してきました。現在も、次世代の芸術家を育成する重要な機関として、その役割を果たしています。

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