ミルウォーキー鉄道

ミルウォーキー鉄道：北米大陸を駆け抜けた巨人の軌跡

ミルウォーキー鉄道（Chicago, Milwaukee, St. Paul and Pacific Railroad, CMStP&P）は、アメリカ合衆国でかつて活躍した一級鉄道です。シカゴ、ミルウォーキー、セントポールといった主要都市を結び、太平洋北西部まで路線を伸ばしたその歴史は、アメリカ鉄道史に大きな足跡を残しています。本稿では、ミルウォーキー鉄道の隆盛と衰退、そしてその技術的特徴について探ります。

1847年から始まる壮大な歴史

1847年の開業以来、ミルウォーキー鉄道は着実に路線網を拡大しました。ウィスコンシン州を起点に、ミネソタ州、アイオワ州、サウスダコタ州、ミシガン州へと広がりを見せ、1909年にはついにシアトルに到達。北米大陸横断鉄道として、その偉業を成し遂げました。ライバル鉄道であるグレート・ノーザン鉄道が日本郵船と提携していたのに対し、ミルウォーキー鉄道は大阪商船との関係を築き、国際貿易にも関与しました。

電化による革新：ロッキー山脈を越える挑戦

ミルウォーキー鉄道は、石炭産地に乏しい地理的条件と、モンタナ水力電気会社からの電力供給という有利な状況から、路線の電化に積極的に取り組みました。特に、ロッキー山脈やカスケード山脈といった険しい山岳地帯では、電気機関車の採用が蒸気機関車に比べて効率的でした。ゼネラル・エレクトリック社（GE）の協力を得て、直流3000Vの電化工事が進められ、1915年にはモンタナ州で電気運転を開始。1920年代までには、モンタナ州、アイダホ州、ワシントン州に及ぶ649マイル（約1038km）もの電化区間を完成させました。特にハーロウトンとアイダホ州エーブリー間の440マイル（約704km）は、当時世界最長の連続電化区間として知られていました。電化による高速輸送は、旅客と貨物輸送の効率を飛躍的に向上させました。興味深いことに、モンタナ水力発電所との電力契約は、一般的な従量制ではなく、ピーク時の電力使用量を基に料金が決まる仕組みだったため、電力消費量の急増を抑えるための「過負荷予防装置」が設置されていました。

名列車たちの活躍：ハイアワサ、オリンピアンそして他

ミルウォーキー鉄道には、数々の名列車が活躍しました。中でも有名なのは、「ハイアワサ」シリーズです。シカゴとミネアポリス・セントポール間を結ぶ「モーニング・ハイアワサ」「アフタヌーン・ハイアワサ」、シカゴとシアトル・タコマ間を結ぶ大陸横断列車「オリンピアン・ハイアワサ」など、流線型の車体は時代の最先端を象徴していました。「オリンピアン」「コロンビアン」「スー」など、他の大陸横断列車も多くの乗客を運びました。また、他社からの乗り入れ列車も運行され、シカゴから西海岸、ロッキー山脈方面への交通網の中核を担っていました。

衰退とアムトラックへの移管

戦後、旅客輸送の需要減少やトラック輸送の台頭により、ミルウォーキー鉄道は経営難に陥ります。1955年にはシカゴ-オマハ間の路線をユニオン・パシフィック鉄道に譲渡し、1961年には「オリンピアン・ハイアワサ」の運行を停止しました。1971年には、中・長距離の旅客列車をアムトラックに移管。1985年には一部路線の売却を経て、ついに倒産しました。

残された遺産

ミルウォーキー鉄道は、その歴史の中で数々の技術革新と経営努力を経験しました。電化区間を積極的に整備したことや、数々の名列車を運行してきたことは、アメリカ鉄道史に大きな足跡を残しています。現在も動態保存されている261号機関車は、その栄光の日々を物語る貴重な遺産となっています。ミルウォーキー鉄道の物語は、時代の変遷と鉄道の進化を垣間見ることができる、重要な歴史資料と言えるでしょう。

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