ミルク繊維

ミルク繊維とは

ミルク繊維は、牛乳に含まれるタンパク質であるカゼインを原料とした再生繊維の一種です。動物性タンパク質を原料としていますが、ウールや羽毛、絹などの動物繊維とは異なり、化学的な処理を経て作られる再生繊維に分類されます。かつては「ラニタル」、「シノン」、「フィブロレイン」などの商品名で知られていました。

ラニタル

1935年、イタリアの化学者アントニオ・フェレッティは、脱脂乳からカゼインを取り出し、アルカリを加えて粘性を持たせた液体を紡糸することで、人造羊毛の製造に成功しました。この方法は、先行していたドイツの研究者によるものよりも品質が優れていました。当時、第二次エチオピア戦争の影響で経済制裁を受けていたイタリアでは、繊維製品の自給が急務であり、この繊維は「ラニタル」と名付けられ、SNIA Viscosa社によって製品化されました。しかし、ラニタルはウールに比べて強度や柔軟性が劣り、アイロンにも弱いという欠点があり、後に登場した化学[[繊維]]に取って代わられました。

プロミックス

日本の繊維メーカーである東洋紡は、1969年から牛乳のタンパク質を塩化亜鉛で溶解し、アクリロニトリルをグラフト重合して湿式紡糸したプロミックス繊維「シノン」の生産を開始しました。プロミックスは、タンパク質とアクリル[[繊維]]の原料を混ぜ合わせていることに由来し、JIS規格では重量割合でタンパク質を30%以上60%未満含む繊維を指します。1リットルの牛乳から約60グラムのプロミックス繊維が作られ、短繊維ではなく長繊維として流通しました。東洋紡は福井県敦賀事業所に年産1000トンの生産設備を持っていましたが、2003年秋に生産を休止し、2004年に事業から撤退しました。2017年3月末には、家庭用品品質表示法に基づく繊維製品品質表示規程から繊維名の指定用語が削除されました。

ミルク繊維の特徴

ミルク繊維は、和装品や肌に直接触れる肌着、ベビー服、寝具などに使用されてきました。ウールの代用品として開発されたラニタルに対し、プロミックスは絹の代替として開発されたため、絹のような光沢と風合いを持っています。また、虫害に遭いにくく、絹やポリエステルよりも軽量で、保温性、吸湿性、耐薬品性、染色性に優れています。一方で、耐熱性が低く、270℃程度で分解するという弱点も持っています。

持続可能性繊維としての再評価

安価な化学[[繊維]]の普及により一度は衰退したミルク繊維ですが、近年、廃棄される牛乳の再利用や、製造工程で必要な水の量が木綿に比べて少ないことなどから、ポリエステルなどの石油系化学[[繊維]]に代わる持続可能性繊維素材として再び注目されています。過剰生産や消費期限切れなどで廃棄される牛乳を有効活用できる点も、持続可能性への意識が高まる現代において、ミルク繊維が再評価される大きな要因となっています。

ミルク繊維は、その独特な風合いと環境負荷の低さから、今後ますます注目される可能性を秘めた繊維素材と言えるでしょう。

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