カゼイン

カゼインとは

カゼイン（casein）は、牛乳やチーズなどの乳製品に豊富に含まれるリンタンパク質の一種です。日本語では酪素とも呼ばれます。乳タンパク質の約80%を占める主要成分であり、乳固形分を構成する上で欠かせない存在です。カゼインは単一のタンパク質ではなく、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼインの3種類に分類されます。

カゼインの構造と特性

カゼインは、タンパク質を構成するアミノ酸の中でも、セリンに由来する部分にリン酸が結合したリンタンパク質です。このリン酸基のため、カゼイン分子全体はマイナスの電荷を帯びており、カルシウムイオンやナトリウムイオンなどの陽イオンと結合しやすい性質を持っています。

牛乳中では、カゼインは特にカルシウムと結合してカルシウム塩の形で存在し、カルシウムの安定な運び屋として機能しています。牛乳中のカゼインは、カルシウム、カゼイン、リン酸が複合体を形成し、水溶性の高いκ-カゼインの働きによってミセルという構造を形成します。このミセル構造により、カゼインは牛乳を均質なコロイド溶液として安定化させ、不溶性成分が沈殿するのを防ぐ役割を果たしています。また、カゼインはpH4.6という等電点において、牛乳から容易に分離できます。

カゼインの多様な利用

カゼインは、その多様な特性から食品、材料、工業など様々な分野で利用されています。

栄養補助剤

カゼインは、必須アミノ酸をバランス良く含む良質なタンパク質であり、栄養補給の目的で栄養補助剤として利用されます。また、カルシウムとの結合性からカルシウム吸収を助ける効果も期待でき、カルシウム補給を目的としたサプリメントにも添加されています。

安定化剤

カゼインは、水溶液中でミセルを形成する特性を利用して、食品や化粧品における安定化剤として利用されています。特に、水溶性の高いカゼインナトリウム塩（カゼインNa）は、加工飲料や乳液などの分散安定性を高めるために広く使われています。

カゼインプラスチック

カゼインを加工すると、象牙に似た熱可塑性プラスチックが得られます。これはカゼインプラスチック、またはラクトカゼインと呼ばれ、印章やボタンなどの材料として工業的に利用されています。染色も可能で、ホルムアルデヒドで架橋したガラリスは、かつて象牙の代用品として使われていました。

第二次世界大戦中には、日本では軍用機のプロペラ材料としても利用されました。

プロミックス

カゼインにアクリロニトリルをグラフト重合させた繊維はプロミックスと呼ばれ、1970年代に東洋紡によって開発されました。絹のような風合いが特徴です。

塗料

カゼインをアンモニアなどのアルカリで中和して水溶化させたものは、塗料の原料として古くから使われています。特に皮革用塗料として利用されていました。

接着剤

初期の集成材では、カゼインが接着剤として利用されていました。アメリカには1930年代にカゼインを接着剤として建設された図書館が残っています。

日本軍でも四式戦闘機の木製化のためにカゼイン接着剤を使用しましたが、トラブルが多かったようです。

カゼインとアレルギー

牛乳アレルギーの原因となるタンパク質の一つとして、α-カゼインが知られています。そのため、乳幼児向けにはα-カゼインを低減したミルクが販売されています。人乳やヤギ[[乳]]にはα-カゼインが少ないことが知られています。

カゼインの展望

カゼインは、その多機能性から、今後も様々な分野での応用が期待される素材です。環境負荷の少ないバイオマス由来の素材として、その重要性はますます高まるでしょう。

出典
T Colin Campbell; Thomas M Campbell, II (2006). The China study : the most comprehensive study of nutrition ever conducted and the startling implications for diet, weight loss and long-term health. BenBella Books. ISBN 9781932100662. OCLC 70867373

関連項目
タンニン酸アルブミン - カゼインとタンニン酸より合成される。
チーズ - チーズの生成には、カゼインの性質が関係している。
食材

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