ミンバル

ミンバルの概要

ミンバルとは、アラビア語でモスクに存在する説教壇を指します。通常、キブラを示すミフラーブの隣に置かれ、金曜日にはここでハティーブが説教を行います。また、歴史的には君主の命令が伝えられる場所でもありました。母国語としての表現に由来するこの言葉は、立つことを意味する語根から派生したものです。多くの場合木材で作られますが、煉瓦や石で構成されることもあり、固定式と移動式のデザインが存在します。さらに、階段状の構造を持ち、豪華なものには装飾や手摺りが施されていることもあります。

ミンバルの歴史と機能

ミンバルの起源は、預言者ムハンマドが信徒たちに良く見えるようにと、椰子の幹の下で2段の説教壇を設けた時にまで遡ります。この段は「aʿwād」と呼ばれ、ムハンマドの時代に設置されたのが初めてのミンバルとされています。後のカリフたちも同様にこの構造を利用しました。当初、ミンバルは単なる説教の場であるだけでなく、世俗権力の象徴でもあったと考えられます。

当時、エジプト地域の歴史家アラ＝キンディ・アル＝ミスリが記録したように、全てのモスクにミンバルが存在していたわけではありません。ヒジュラ暦94年（西暦712年頃）にフスタートの大モスクにミンバルが設置されたことが記録されています。この時、このミンバルはマディーナの預言者のミンバルに次ぐ2番目のものでした。後の時代には、ウマイヤ朝の初代カリフが自らのミンバルを持参して旅することもありました。このように、ミンバルは時間と共に移動式のものが登場するなど、その形態が変化していきました。

ウマイヤ朝のカリフ、ムアーウィヤは金曜日の説教をミンバル上で行った最初の人物とされ、そのミンバルの存在は政治的な権力の強調とも関連していました。その後、アッバース朝時代になると、ミンバルは純粋な礼拝聖域としての役割を持つようになり、世俗的な権力の象徴から説教の場へと移行しました。これにより、ミンバルは法的効力を持つ誓いの場としても利用されるようになりました。

預言者のミンバル

特にマディーナにおける預言者のミンバルは、イスラームの歴史の中でも特別な意味を持っています。ここで行われる宣誓は重要であり、預言者のミンバルの脇での虚偽の宣誓は地獄に繋がるとされています。また、宣誓に関する伝承も存在し、誓いの行為がイスラーム法の実践において重要な位置を占めるようになりました。

ただし、預言者のミンバルは初めての時点では神聖な場所ではなく、後の時代に神聖視されるようになったという見解が現在の研究で支持されています。初期の法律文書では、この説教壇についての言及が少なく、神聖性の概念は後の時代に発生した可能性があります。それでも、預言者のミンバルは早期から世俗的な権力の象徴としての役割を果たしていたと言えるでしょう。

現代におけるミンバル

今日では、ミンバルはモスクの設計に欠かせない要素として残っています。カイラワーンの大モスクに保存されている初期のミンバルは、その形状や装飾において宝物的な存在です。この建物は、当時のイスラーム建築の特徴を色濃く反映しており、歴史的価値を持つものとされています。また、ファーティマ朝の時代には、ミンバルのデザインがさらに洗練され、最終的な形に近づきました。

そのため、ミンバルは宗教的な儀式や政治的な出来事でも重要な役割を果たす場として、今日まで多くの信徒や研究者に注目されています。これらの要素から、ミンバルは単なる建物の一部ではなく、イスラームにおける伝統や文化の象徴として定義されるのです。

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