ムアン

ムアンとは

「ムアン」という言葉は、タイ族の文化圏において、複数の村々が集まり形成された都市や、その都市を治める領主（チャオ）が統治する領域全体を指す言葉です。これは、村々を束ねる上位の概念であり、かつては都市国家を意味していました。現代では、国や都市を示す言葉として用いられる一方、ラオスでは県の下位行政区分である郡を示す行政用語としても使われています。

ラーンナー地域におけるムアン

ラーンナー地域では、村落（ムーバーンまたはバーン）がいくつか集まって集落（パンナー）を形成し、それがさらに軍事的な防御施設を備えると都市（ウィエン）となります。特に、王侯貴族が支配するウィエンは「チエン」と呼ばれ、チエンマイや景洪、ケントゥンなどがこの例です。これらのウィエンやチエンを中心とした都市国家がムアンと定義されました。

タイの行政区画としてのムアン

ラーマ5世の時代、チャックリー改革によりモントン（州制）が導入されると、ムアンは中央集権化の波に呑まれ、その独立性を失いました。それまでムアンは財政的に独立していましたが、この改革により国主制度が廃止され、モントンの下位行政区分に組み込まれました。これが現在のタイの県（チャンワット）の原型となります。

1916年以降、それまでムアンと呼ばれていた県はチャンワットと改称され、行政区画としてのムアンは廃止されました。しかし、各県の県庁所在地名には、アユタヤ郡を除き、ムアンという言葉が慣習的に残っています。

歴史学におけるムアン

東南アジア史の研究者である石井米雄と桜井由躬雄は、古代東南アジアの権力構造を以下のように分類しました。

ムアン国家: 盆地で稲作を行う高人口密度地域に形成される村（バーン）の集合体。
ヌガラ国家: 密林に囲まれ、水路が交通手段となる地域で、河川上流の産物を交易する港湾都市。
プラ国家: 村落や園地を所有する平野の城郭都市。

このように、ムアンは単なる地域名ではなく、歴史的、社会的な意味合いを持つ重要な概念として捉えられています。ムアンは、東南アジアの都市や国家の形成、変遷を理解する上で欠かせないキーワードです。

関連項目

マンダラ論

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