タイ族

タイ族：その起源、歴史、そして多様な文化

タイ族は、タイ語やラオス語などのタイ諸語を母語とする民族の総称です。タイ人＝タイ族、ラオス人＝ラオ族という単純な図式ではなく、タイ族という括りの中には、ラオ族をはじめとする様々な民族が含まれます。本稿では、特に断りのない限り、ラオ族なども含めた広義のタイ族について考察します。

タイ族の語源

「タイ（Thai、ไทย）」という言葉の語源は、一般的に「自由」という意味だと説明されることが多いですが、これは俗説です。現在では、中国古代語の「大（dai）」が語源で、それが訛って「thai（ไท）」となったとする説が有力です。「大」には「立派な」という意味があり、それが転じて「自由人」という意味になり、最終的には民族名として定着したと考えられています。昔のタイでは、「あなたはどこのタイですか？」というように、奴隷ではない自由民を指す言葉として用いられていたようです。タイ（自由人）は、タートと呼ばれる奴隷と明確に区別されていました。その後、この言葉はタイ全土に広がり、タイ人を表す一般的な言葉となりました。現代タイ語では、「自由」というやや曖昧な意味と「タイ人」という意味の二つの意味合いを持ちます。なお、ไทยの語尾のยは、サンスクリット語風に見せるための飾り文字です。

ラオ（Lao）という言葉は、かつて王族の名前に冠せられる称号として用いられていました。チエンマイ王統史やナーン王統史にもその痕跡が見られます。その後、称号としての地位を失い、「人」を意味する一般的な言葉となりました。当初はタイという言葉も同様の意味で使われていましたが、ラオ族の国ではタイ族に対する反感が生まれたため、「どこぞのタイ」から「どこぞのラオ」という表現に変化し、ラオが民族名として定着したのです。フランス人がラオを「Lao」と表記し、「Laos」（ラオス）という国名になった経緯も興味深い点です。

タイ諸族の起源

タイ系諸族の起源については、様々な説が存在します。

アルタイ山脈起源説: 中国に居住していたタイ族が、6世紀頃にアルタイ山脈からインドシナ半島へ移動したという説。
タイ王国起源説: タイ王国を起源とする説。
東南アジア島嶼部起源説: 古タイ・カダイ語がオーストロネシア語族に近いという説。
南詔起源説: 中国南西部の南詔を起源とする説。
中国南部起源説: 揚子江南部から雲南省にかけての地域を起源とする説。これが最も有力視されています。
中国の東南沿岸・台湾起源説: 古タイ・カダイ語とプロト・オーストロネシア語の類似性を根拠とする説。

現在、最も有力とされているのは中国南部起源説で、広西からベトナムを起源とし、6～7世紀頃に漢族の進出によって西南へ移動したと考えられています。中国の東南沿岸・台湾起源説も注目されており、言語年代学的研究では、古タイ・カダイ語は4000～5000年前に存在し、台湾から中国内陸部、北ベトナムへと移動したとされています。

タイ族の歴史：哀牢から南下へ

紀元前215年、秦の攻撃を受け、タイ族はさらに南下し、ムアン・ペーガイ（現在の中国雲南省）という都市国家を形成しました。中国ではタイ族を「南蛮」、特に「哀牢（Ailao）」と呼んでいました。現在の雲南省南部には、哀牢の末裔とされるタイ族が今も居住しており、中国語ではタイ人を「泰」、雲南のタイ族を「傣」と区別して表記しています。雲南のタイ族は、タイ国に住むタイ族からは「タイ・ルー族」と呼ばれます。カレン族も哀牢の末裔のひとつと考えられています。

前漢との対立を経て、ムアン・ペーガイは滅亡と独立を繰り返した後、7世紀頃には雲南省の大理盆地に6つのムアン（六詔）が建国されました。729年、ムアン・スイが六詔を統一し、南詔王国が建国されます。南詔王国は勢力を拡大しましたが、902年に滅亡します。その後、大理国が建国され、タイ族もその傘下に収まりましたが、その後大移動を始め、インドシナ半島、ビルマ、アッサムなど各地に散らばり、新たなムアンを形成していきました。

タイ族の南下と多様な枝分かれ

タイ族の南下は段階的に行われました。

タイ・ユワン族: メコン川北部上流に定住し、ラーンナー王朝を建国しました。彼らはラーオ語と似たタイ諸語の方言を話し、独特の風習を持っていました。
シャン族: ミャンマーのシャン州に進出し、サルウィン川流域に定住しました。
アーホーム族、タイ・カムティ族: インド北東部アッサム地方に進出し、現在ではヒンドゥー化しています。
ラオ族: メコン川流域に定住し、現在のラオスを建国しました。
イーサーン人: タイのチャクリー王朝とラオスの戦争によりタイ領となったイーサーン地方に住むラオ族。
シャム人（小タイ族）: スコータイ王国を建国し、現在のタイ王国の基礎を築きました。

大タイ民族主義と歴史認識

タイの歴史教育は、大タイ民族主義に基づいており、南下以前の歴史には多くの問題点があるとされています。19世紀末に始まった民族教育は、20世紀には愛国主義教育へと発展し、現在の歴史観が形成されました。アルタイ山脈起源説など、19世紀当時の欧州の仮説も取り入れられています。南詔をタイ民族による最初の独立国家とする従来の認識も、現在の研究では疑問視されています。

中国のタイ語民族

中国では、タイ語民族（傣族）を7つの主要集団に分類しています。

この文章では、タイ族の複雑な歴史と多様な文化の一端を紹介しました。さらなる研究と理解が、この魅力的な民族の全貌を明らかにするでしょう。

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