ラーンナー

ラーンナーは、13世紀末から19世紀末まで、現在のタイ北部を中心に存在した王朝、およびその支配領域、そしてそこで育まれた文化を指します。かつては「チエンマイ王朝」とも呼ばれ、元朝の冊封を受けた際には「八百媳婦国」とも記録されました。

地域

ラーンナー地域は、一般的にタイ北部の8県、具体的にはチエンマイ県、チエンラーイ県、ラムプーン県、ラムパーン県、ナーン県、パヤオ県、プレー県、メーホンソーン県を指します。広義には、南はターク県北部、西はサルウィン川東岸、東はメコン川西岸のラオス領サイヤブーリー県、北はミャンマーのシャン州や中国のシーサンパンナ・[[タイ族自治州]]までを含みます。

名称

日本語では「ラーンナー」と表記されますが、タイ語での表記には「ล้านนา（百万の田）」と「ลานนา（多くの田）」という二つの説がありました。古文書の研究から、「百万の田」がより正しい表記とされるようになりました。これは、パーリ語由来の国号「タサラッカケータナカラ（百万の田の町）」に由来すると考えられています。

略史

1292年、マンラーイ王によって建国されたラーンナーは、チエンマイを都として独自の発展を遂げました。南のスコータイ王朝やアユタヤ王朝とは異なる覇権を築きましたが、16世紀にはビルマの支配下に入りました。18世紀には反ビルマ運動が起こり、シャム王タークシンに寝返り、その後チャクリー王朝の朝貢国となりました。中央集権化が進むまで、チエンマイ、ラムプーン、ラムパーン、ナーン、プレーなどの王国は半独立を維持し続けました。

歴史

建国前史

13世紀、グンヤーン王国のマンラーイは、周辺の都市を支配下に置き領土を拡大しました。モンゴル帝国の侵攻を避けるため、1262年にチエンラーイに遷都しました。1292年には、南シナ海への貿易路開拓のためハリプンチャイ王国を滅ぼし、その文化を吸収し、後のラーンナー文化の源流を作りました。

マンラーイ朝

黎明期

1294年、マンラーイはウィエンクムカームに遷都し、1296年にはチエンマイに遷都しました。これがラーンナー王朝の成立とされています。マンラーイは、元の侵攻を防ぐためにシャン族に援軍を送りましたが、1311年に死去し、ラーンナーは元の朝貢国となりました。その後、セーンプー王はチエンセーンを築き、カムフー王はパヤオ王国への侵攻に失敗しました。パーユー王は仏教を積極的に保護しました。

繁栄期

クーナー王の時代からラーンナーは繁栄期に入り、仏教が保護されました。スコータイからスマナー長老を招き、ワット・スワンドークを建設し、仏教の一大中心地となりました。サームファンケーン王の時代には、チン・ホー族の侵攻を退け、明から独立しました。ティローカラート王は、ナーン、プレーを版図に加え、アユタヤとの間で領土を巡り争いました。彼は仏教を保護し、トリピタカの編纂を行いました。ケーオ王の時代には、仏教文化がさらに発展しましたが、ケントゥンへの遠征で多くの人材を失い、衰退の一因となりました。

衰退期

衰退期には、国王の権威が衰退し、官吏による政治が行われるようになりました。ケートクラオ王の時代には、クーデターや暗殺が相次ぎ、政治は混乱しました。ラーンサーン王国から招かれたセーターティラート王も、短期間で帰国し、ラーンナーはさらに混乱しました。1558年、タウングー王朝の侵攻により、ラーンナー王朝は独立を失いました。

ビルマ占領時代

前期

ビルマのバインナウンは、ラーンナーを直接統治せず、帰順した国主には引き続き統治を認めました。チエンマイはビルマ軍の拠点となり、ラーンナーの諸都市は徐々に離反し始めました。1578年、マンラーイ王家が途絶えると、ビルマ人による支配が始まり、ラーンナーは分裂しました。その後、チエンマイはビルマによる支配が続きましたが、チエンセーンではアユタヤ王朝が擁立したパヤー・ラームデーチョーが即位し、分裂状態となりました。

後期

ビルマによる支配が続くと、ラーンナーはビルマの一部と見なされるようになりました。18世紀にはコンバウン王朝がラーンナーを南北に分割し、ラーンナーはビルマの重税により疲弊しました。1732年には農民による武装蜂起が起こり、さらに混乱しました。1774年、トンブリー王朝の加勢により、チエンマイを奪還し、ビルマ支配から脱しました。

復興ラーンナー王朝

チャーバーン

チャーバーンは、トンブリー王朝のタークシン王の支援を受け、チエンマイを奪還しました。彼はチエンマイの王となり、トンブリー王朝の朝貢国となりました。しかし、タークシン王の怒りを買い、1779年に死亡しました。

チェットトン朝

ラーマ1世の時代に、カーウィラがチエンマイ王となり、チェットトン朝が始まりました。彼は人口回復に努め、チエンマイを再建しました。1813年までに、ラーンナー北部の諸都市をほぼ廃墟としました。チェットトン家は9代続き、19世紀末にはチャクリー王朝の支配下に入り、ラーンナー王朝は終焉を迎えました。

政治

マンラーイ朝では、「マンラーイ法典」と呼ばれる法典が国の基本法典とされました。首都はチエンマイ、副都はチエンラーイでした。その他の都市は、チエンマイ王によって任命された国主によって治められました。各都市には行政区分としてパンナーが置かれ、納税義務が課せられていました。人民は「カー」と呼ばれる奴隷と「プライ」と呼ばれる平民で構成され、国主の所有物と見なされていました。ラーンナーは各都市の自治性が強く、統一性に欠けていました。国王は、文学や宗教を用い、マンラーイ王家の威厳を高めました。ラーンナーではアユタヤ王朝のような複雑な敬語は発達せず、国王は現人神とは見なされませんでした。

ビルマ占領下では、ラーンナーは南北に分割され、ビルマ人総督が置かれました。復興後のラーンナー王朝はチャクリー王朝の属国となり、森林資源を朝貢しました。

経済

ラーンナーは農業を中心とする国家であり、国土は肥沃で、ほとんどの地域で自給自足が可能でした。村社会は、灌漑運河を整備し、米を生産しました。国王も田畑を有し、人民を徴用しました。商業も盛んで、チエンマイは貿易の中心地でした。アユタヤとの間では、森林資源が主要な輸出品目でした。

外交

ラーンナーは、北方のタイ族とはおおむね良好な関係を保っていましたが、南方のタイ族国家とは微妙な関係にありました。ラーンナーは元や明の朝貢国でもありました。

北方

チエンルンやケントゥンとは、文化的に近い関係にありました。ラーオ人とは密接な関係にあり、ラーンサーン王国とは親密でした。復興後は、これらの都市はビルマ側となり、友好的な関係ではなくなりました。チャクリー王朝は、チエンルンやケントゥンへの出兵を命じました。

南方

スコータイやアユタヤとは、貿易を通じて密接な関係にありましたが、領土を巡って争うこともありました。復興後のラーンナーは、チャクリー王朝の朝貢国となりました。

君主・国主の一覧

マンラーイ朝

マンラーイ（1261 - 1311年）
チャイソンクラーム（1311 - 1325年）
セーンプー（1325 - 1334年）
カムフー（1334 - 1336年）
パーユー（1336 - 1355年）
クーナー（1355 - 1385年）
セーンムアンマー（1385 - 1401年）
サームファンケーン（1402 - 1441年）
ティローカラート（1441 - 1487年）
ヨートチエンラーイ（1487 - 1495年）
ケーオ（1495 - 1525年）
ケートクラオ（1525 - 1538年）
チャーイ（1538 - 1543年）
ケートクラオ（2回目）（1543 - 1548年）
チラプラパー（1548 - 1546年）
サイセーター（1546 - 1547年） - ラーンサーン王
（不在：1548 - 1551年）
メーク（1551 - 1564年）
ウィスッティテーウィー（1564 - 1578年）

ビルマ占領以降

ノーヤターミンソー（1578 - 1607年）
チョーイ（1607 - 1608年）
チャイティップ（1607 - 1613年）
チョーイ(2回目)（1613 - 1615年）
ナーンの国主（1615 - 1631年）
ルワンティッパネート（1628 - 1655年）
セーンムアン（1655 - 1659年）
プレーの国主（1659 - 1672年）
ウッパラーチャ・インチェマン（1672 - 1675年）
チェークトラーの子（1675 - 1716年）
マンレーナラー（1716年 - 1736年）
テープシン（1736年）
オン・カム（1727 - 1759年） - 元ルアンパバーン王
オン・チャン（1759年 - 1761年）
ワット・ドゥワンディーの還俗僧（1761 - 1763年）
ポー・アキアカミニー（1762 - 1768年）
ポー・マーユグワン（1768 - 1774年）

ビルマ占領からの脱出

チャーバーン（1774 - 1779年）

チェットトン朝

カーウィラ王（1782-1816年）
タンマランカー侯（1816-1822年）
カムファン侯（1823-1825年）
プッタウォン侯（1825-1846年）
マホータラプラテート大公（1847-1854年）
カーウィローロットスリヤウォン大公（1856-1870年）
インタウィチャヤーノン大公（1873-1896年）
インタワローロットスリヤウォン公（1901-1909年）
ケーオナワラット公（1909-1939年）

ラーンナー史学史

ラーンナー史の研究は、プラヤー・プラチャーキットコーラチャックが1899年に『ヨーノック年代記』を出版したことから始まりました。チエンマイ大学などで研究が進められていますが、未だ批判されていない史料や考古学的調査が残されています。

脚注

この文書は、入力された情報をもとに再構成したものです。

参考文献

Rātchasomphān, Sāēnlūang; Wyatt, David K. (1994). The Nan Chronicle. SEAP Publications.
Ongsakul, Sarassawadee (Thai text 2001, English text 2005). History of Lan Na. Silkworm Books.
Penth, Hans (2002). A Brief History of Lan Na - Civilizations of Nothern Thailand. Silkworm Books.
『ムーラサースナー』
『ジナカーラマーリー』
『チャーマテーヴィーヴァムサー』
『チエンマイ年代記』
『ナーン年代記』
『チェーヘーン年代記』
『シンハナワットクマーン年代記』（『チエンセーン年代記』とも）
『スワンナコームカム年代記』
『ヨーノック年代記』
『北方年代記』
『アユタヤ王朝年代記ルワンプラスート本』など
『チエンマイ王統史（ジンメ・ヤーザウィン）』
『フマンナン王統史（フマンナン・マハーヤーザウィンドージー）』など
Grabowsky, Volker; Turton, Andrew (2003). The Gold and Silver Road of Trade and Friendship. Silkworm Books.
McGilvary, Daniel (1912). A Half Century Among the Siamese and the Lao. Fleming H. Revell Company

関連項目

フォンジューン

外部リンク

Lanna World - ラーンナー史研究者らのポータルサイト。
Welcome to Histroy of Chiang Mai - ユッパラートウィッタヤーライ学校サイト内、簡単なラーンナーの歴史。（ウェイバックマシン）

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