ラーマ5世

ラーマ5世（在位：1868年 - 1910年）は、チャクリー王朝の第5代シャム国王であり、チュラチョームクラオ、ピヤマハーラート、幼名チュラーロンコーンとも呼ばれます。彼の治世は、シャム（現在のタイ）の近代化における重要な転換期であり、数々の改革を通じて国を大きく発展させました。タイ国内外において、その業績は高く評価されています。

生涯と内政

ラーマ5世は即位後、欧米への視察旅行を通じて自国の立ち後れを痛感し、チャクリー改革と呼ばれる広範な改革に着手しました。この改革は、タイの政治、経済、社会の各分野に及ぶもので、彼のリーダーシップの下、国は近代国家へと変貌を遂げました。

主な改革内容:

奴隷制度の廃止: 長年にわたり公然と行われていた奴隷売買を段階的に廃止しました。この功績により、ダムロン王子から「歓喜大王」と称えられました。この奴隷解放の様子は、アナンタサマーコム宮殿にも絵画として残されています。
中央集権国家の確立: 地方の王を廃止し、中央政府による統治体制を確立しました。これにより、国家の一体性が強化されました。
官僚制の導入: 行政の効率化を図るため、官僚制度を導入しました。これにより、行政組織が整備され、国政運営が円滑に進むようになりました。
議会制度の導入: 国政協議会と枢密院を設置し、議会制度の前身となる仕組みを導入しました。
学校教育の開始: 近代的な学校教育を開始し、国民の教育水準向上に貢献しました。
インフラ整備: ラーチャダムヌン道路の整備や、バンコクとナコーンラーチャシーマーを結ぶ鉄道の開通など、交通インフラの整備を積極的に進めました。
通信事業の開始: 電話業務を開始し、通信網の近代化を図りました。

ラーマ5世は、そのリーダーシップと改革への情熱により、タイを近代化に導いたとして、現在でも国民から敬愛されています。彼の肖像画は首飾りやポスターに使用され、仏壇に像が置かれるなど、その人気は絶大です。1999年には、アメリカの『タイム』誌で「今世紀もっとも影響力のあったアジアの20人」の一人に選ばれました。

外交

当時のシャムは、周辺諸国が欧米列強の植民地となる中で、その独立を維持することが重要な課題でした。ラーマ5世は、イギリスにマレー半島の一部を割譲し、フランスにはラオスとカンボジアを割譲することで、列強間の緩衝地帯としての地位を確保し、独立を保つことに成功しました。また、仏教国との関係構築にも力を注ぎ、1898年にインド北部で発見された釈迦の遺骨を、ビルマ、セイロン（現在のスリランカ）、日本などの仏教国へ分与しました。この際に日本へ贈られた遺骨は、覚王山日泰寺に納められています。

家族

ラーマ5世は、正妻・副妻に異母姉妹を持ち、側室を含めた妻の数は160人以上、子供の数は77人と、歴代最高の多さでした。そのため、ワット・プラケーオに併設された宮殿だけでは足りず、ドゥシット宮殿を建設しました。この宮殿の一部は、現在、ドゥシット公園動物園、ドゥシット公園師範学校、ウィマーンメーク宮殿、タイ王国国会議事堂、アナンタサマーコム宮殿、チットラダー宮殿などとして利用されています。

「アンナとシャム王」との関連

欧米では、1944年の小説『アンナとシャム王』や、それを原作としたミュージカルや映画を通じて、ラーマ5世が少年時代に王宮の教師であったアンナの影響を受けて西洋化を志したという説が広まっています。特に、奴隷解放政策に関しては、アンナが読ませた『アンクル・トムの小屋』が影響を与えたという逸話が有名です。しかし、これらの作品は誇張が含まれている俗説であり、タイでは不敬罪として上演されていません。

関連施設・団体

ワット・ベンチャマボーピットドゥシットワナーラーム：ラーマ5世の遺骨が納められている寺院。
インタウィチャヤ：ラーマ5世の息子の一人
タイ赤十字社：ラーマ5世によって設立された。
チュラーロンコーン大学：ラーマ5世によって設立されたタイ最古の大学。
覚王山日泰寺：ラーマ5世から贈られた仏舎利が安置されている寺院。

ラーマ5世の生涯は、タイの近代化を語る上で欠かせない重要な歴史であり、その功績は今もなお、タイ国民の誇りとなっています。

もう一度検索