ムアンメーホンソーン郡

ムアンメーホンソーン郡

タイ王国の北部、メーホンソーン県の県庁所在地として位置するのがムアンメーホンソーン郡（อําเภอเมืองแม่ฮ่องสอน）です。この郡は、深い山々に囲まれた山岳地帯に広がり、県の中核を担っています。

名称の由来

この地の名称「メーホンソーン」は、その歴史と深く結びついています。元々は戦象を訓練するための場所として、「メーロンソーン」（แม่ร่องสอน）と呼ばれていました。この言葉は「（象を）調教する場所にある溝の川」という意味を持ち、象の訓練に関連する水辺の地形を示唆しています。長い年月を経てこの呼称が転訛し、現在の「メーホンソーン」という地名になったと伝えられています。

歴史的変遷

ムアンメーホンソーン周辺地域は、チャクリ王朝期以前は本格的な定住が進んでいない深い森林地帯でした。チャクリ王朝期に入り、1831年、当時のチエンマイ王マホータラプラテートが、この地域の豊かな森林資源と野生動物に注目し、親族であるチャオ・ケーオムアンマーに入植を命じたことが、この地の歴史の始まりとなります。

チャオ・ケーオはまず現在のパーイ郡方面から入植を開始し、パーイ川の流れに沿って南下しました。そして、現在のメーホンソーン市街地にあたるタムボン・パーンムーの地に、パーイ川流域に暮らしていたシャン族やルワ族などの人々を集め、共同体としてバーン・ポーンムー村を建設しました。この村の初代村長には、シャン族の人物であるパカーモンが任命されました。これが現在のメーホンソーンの源流とされています。

その後、パカーモンとチャオ・ケーオはさらに南へと開拓を進め、象の訓練施設を設けました。これが「メーロンソーン」と名付けられた施設であり、現在のメーホンソーンの中心部を形成する基盤となりました。パカーモンは引き続きこの象の村の長となり、メーホンソーンはシャム王国におけるシャン族の重要なコミュニティ拠点として機能するようになります。

19世紀後半には、周辺地域での戦乱がメーホンソーンの発展に影響を与えました。1856年のサルウィン川西岸の内乱や、1876年のムンナーイとムンモークマイ間の争いから逃れた多数のシャン族がこの地に避難してきたのです。特に後者の戦いでは、敗れたムーンモークマイの君主もメーホンソーンに身を寄せたと記録されており、こうした人々の流入が街の人口を増やし、繁栄をもたらしました。

この拡大を受けて、1874年にはメーホンソーンは街として昇格し、チエンマイの朝貢国となりました。この朝貢は稲作ではなく、主に森林資源を貢納する形で行われたと考えられています。当時のチエンマイ王は、シャン族のチャーンカレーをパヤー・シンハナートラーチャーに任命し、メーホンソーンの統治を委ねました。以降、パヤー・シンハナートラーチャー（1874-1884）、チャオナーン・ミア（1884-1891）、パヤー・ピタックサヤームケート（1891-1905）、そしてパヤー・ピサーンホンソーンブリー（1905-1941）といった国主がこの地を治めました。

一方、タイ中央政府は1890年頃から、この地域に対する統治体制の改革を模索し始めます。メーホンソーンを含む独立性の高い都市群を統合するため、1901年7月11日にはモントン・パヤップ（北部地域を管轄する広域行政組織）のもと、「西チエンマイ地区」が設置され、クンユワムに事務所が置かれました。1903年には地区の首府がユワム（現在のメーサリエン郡）に移され、名称も「北パヤップ地区」と改められました。そして1910年、勅命によりメーホンソーンを中心とする地域がメーホンソーン県として正式に成立し、ムワイトー郡がその県庁所在地となりました。1933年にモントン制が廃止されると、現在のメーホンソーン県が確立し、ムワイトー郡の県庁所在地としての地位が不動のものとなります。ムワイトー郡は1938年に、県名に合わせムアンメーホンソーン郡と改称され、現在に至っています。

地理と自然

ムアンメーホンソーン郡は、周囲を高い山々に囲まれた山岳地帯に位置しています。主要な集落はパーイ川沿いに形成されています。この地形的特徴から、地域は豊かな森林資源に恵まれており、多くの国立公園や森林公園が存在します。代表的なものとしては、ナムトック・メースリン国立公園、タム・プラー＝パー・スア国立公園、ナムトック・パースア森林公園、タム・プラー森林公園などがあります。ナムトック・パースア森林公園内には王室のリゾートであるパートーン宮殿も設けられています。

この地域の気候は、山岳地帯ゆえの寒暖差が大きいのが特徴です。特に4月は非常に高温になり、日中の気温が40℃を超える日も珍しくありません。一方で、1月は日中は穏やかでも、平均最低気温が13.8℃程度と冷え込みます。雨季は5月から10月にかけて訪れます。

交通網としては、国道1095号線が東のチエンマイへ、国道108号線が南のメーサリエンと結んでいます。また、メーホンソーン国際空港があり、空路でのアクセスも可能です。

経済と産業

郡の主要な産業は農業であり、主に米作が行われています。しかし、その豊かな自然環境、風光明媚な寺院、そして整備された空港といった要素から、山岳リゾートとしての観光業も非常に盛んです。観光は市内の重要な収入源の一つとなっており、地域の経済を支えています。

行政区分

ムアンメーホンソーン郡は、複数のタムボン（ตำบล、村の下の行政単位）とその下位にある村によって構成されています。現在の行政区分には7つのタムボンが含まれ、合計で68の村が存在します。中心部には自治体であるテーサバーンムアン・メーホンソーンが設置されており、タムボン・チョーンカムの全域を管轄しています。なお、過去にはムアンメーホンソーン郡の一部であったタムボンが、現在パーンマパー郡に移管されています。

現在のタムボンは以下の通りです。

• - ตำบลจองคำ
• - ตำบลห้วยโป่ง
• - ตำบลผาบ่อง
• - ตำบลปางหมู
• - ตำบลหมอกจำแป่
• - ตำบลห้วยผา
• - ตำบลห้วยปูลิง

関連項目

• - カヤン族（この地域にゆかりのある民族集団）

この地域は、独特の歴史、多様な民族文化、そして壮大な自然景観が融合した魅力的な場所であり、タイ北部の中でも特に個性豊かな地域として知られています。

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