ムタワッキル

ムタワッキル（822年3月 - 861年12月11日）は、アッバース朝の第10代カリフ（在位：847年 - 861年）です。

生涯

父は第8代カリフのムウタスィムで、母はペルシア人の奴隷でした。兄に第9代カリフのワースィクがいます。

847年、兄のワースィクがトルコ人近衛兵団と対立して廃位されたため、跡を継ぎました。ムタワッキルは、兄の廃位を見て王権回復に全力を注ぎ、カリフ位を神格化し、極端に保守的な神学派と手を結び、自らを「現世における神の影」とまで称しました。しかし、そのために伯父である第7代カリフのマアムーンが公認していた分離派（ムータジラ派）を異端として弾圧し、教義上の論議を禁止するまでに至りました。また、キリスト教徒やユダヤ教徒に対しての差別を強化し、トルコ系軍閥を抑圧したため、アルメニアやアゼルバイジャン、シリア、エジプトなど各地でムタワッキルに対する反乱が起こりました。さらに、この状況を見た東ローマ帝国のミカエル3世“メテュソス”によるダミエッタ侵攻を受けるなど、アッバース朝は危機的状況に陥りました。

これらの反乱と外敵の侵入は、トルコ系軍人のブガ・アッシャラービによって平定されました。しかし、このためトルコ人の権力がさらに強まり、ムタワッキルはそれを避けるためにダマスカスに遷都しました。後にサーマッラーへ帰還しましたが、今度は次男のムウタッズを偏愛して長男のムンタスィルを冷遇しました。このため、弟に譲位されることを恐れたムンタスィルは861年にトルコ系軍人と密約を結び、ムタワッキルは40歳で暗殺されました。

ムタワッキルの死後、カリフは名目上の存在と化していくことになります。

参考文献
* アミール・アリ『回教史　A Short History of the Saracens』（1942年、善隣社）

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