ムウタスィム

アブー・イシャーク・アル＝ムウタスィム

アブー・イシャーク・アル＝ムウタスィム・ビン・ハールーン（794年8月 - 842年1月5日）は、アッバース朝の第8代カリフ（在位：833年 - 842年）です。歴代カリフの中でも、ひときわ大柄な人物だったと伝えられています。

生涯

ムウタスィムは、アッバース朝最盛期を築いた第5代カリフ、ハールーン・アッ＝ラシードの八男として生まれました。母は女奴隷のマーリダです。カリフに即位する以前は、アナトリアの軍総司令官やエジプト総督といった要職を歴任しました。

兄である第7代カリフ、マアムーンの死後、その子を抑えてカリフの座につきました。即位後は、軍事面の強化に力を注ぎます。まず、マー・ワラー・アンナフルから4,000人（または7,000人とも）のトルコ人マムルークを購入し、親衛隊を組織しました。当時、アッバース朝は衰退期に入り、イラク各地で反乱が頻発していましたが、ムウタスィムはこれらの反乱を徹底的に鎮圧しました。837年には、アゼルバイジャンで発生したバーバクの反乱も、配下のソグド系将軍アル・アフシーン・ハイザールの活躍によって鎮圧に成功しています。

838年には、自ら軍を率いて東ローマ帝国へ遠征し、皇帝テオフィロス率いる東ローマ軍を破り、アンカラ（アンキラ）とアンムーリヤを占領しました。この功績を讃え、詩人のアブー・タンマームはムウタスィムを「偉大なるガーズィー」と称える詩を詠んでいます。しかし、晩年の841年には、「覆面の男」と呼ばれたアブー・ハルブらによる反乱がパレスチナやダマスカスなどで発生するなど、カリフの統制力は明らかに低下し、アッバース朝の衰退をさらに加速させることとなりました。

内政面では、836年に都をバグダードから北のサーマッラーへ遷都しました。この遷都の理由としては、ムウタスィムが個人的に抱えるマムルークをバグダード市民との軋轢から守るため、あるいはマムルークの横暴を抑えきれなかったためなど、諸説あります。また、ある老人が「暁の矢（悪人や暗君に降り注ぐ神罰の矢）」でカリフと戦うと叫んだことに恐怖したため、という逸話も残っています。しかし、この遷都を機に、ムウタスィム以後の歴代カリフは次第にマムルークに頼るようになり、マムルークがカリフの権威を笠に着て横暴を振るうようになります。ムウタスィムの時代からアッバース朝は財政難に苦しめられており、これらの要因が重なり、カリフの権威低下と王朝衰退を招く一因となりました。

ムウタスィムは842年に49歳で死去しました。彼の死後、息子のワースィクがカリフの座を継ぎましたが、王朝の衰退はさらに進んでいくことになります。

人物・逸話

ムウタスィムは「8」という数字に縁のある人物として知られています。カリフに即位したのが満38歳、誕生日が8月、没年齢が満48歳、王子が8人、王女が8人、出陣した回数が8回、死去したときに国庫にあった金が800万ディルハムであった、という逸話が残っています。

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