ムハンマド・アリー・ジンナー

ムハンマド・アリー・ジンナー：パキスタン建国の父

ムハンマド・アリー・ジンナーは、20世紀におけるインド、ひいては世界の歴史を大きく変えた人物の一人です。彼はパキスタンの初代総督として、インド亜大陸の分割独立を主導したことで知られています。しかし、彼の生涯は、複雑な政治的、宗教的、そして個人的な葛藤に満ちたものでした。

生い立ちと初期の活動

1876年（異説あり）、イギリス領インド帝国のカラチで生まれたジンナーは、グジャラート系ホージャー派ムスリムの家庭に育ちました。裕福な商人の家庭環境で、質の高い教育を受け、イギリスのリンカーンズ・イン法律協会で弁護士資格を取得しました。若くして弁護士として成功を収め、ボンベイで活躍しました。

彼は当初、インド国民会議（INC）に参加し、漸進的なインド独立を支持していました。しかし、ガンディーの登場と、非暴力主義運動の展開によって、インドの政治情勢は大きく変化しました。ガンディーの運動は、ヒンドゥー教徒を中心に広く支持を集めましたが、ジンナーは、その運動がヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立を深める可能性を懸念しました。

宗教的対立とパキスタン構想

1920年代、ジンナーはINCを離党し、全インド・ムスリム連盟（AIML）の指導者として活動を始めました。彼の政治思想は、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒は別個の民族であるという「二民族論」へと進化していきました。これは、インドにおけるイスラム教徒の権利と安全保障を確保するために、独立したムスリム国家が必要であるという主張につながります。

この主張は、1940年のラホール決議において公式に表明されました。この決議は、ムスリムが多数を占める地域が、ヒンドゥー教徒多数派のインドから分離独立することを目指すものでした。この「パキスタン」構想は、インドの政治情勢に大きな衝撃を与え、その後、インド・[[パキスタン分離独立]]へとつながる重要な転換点となりました。

インド・[[パキスタン分離独立]]とその後

第二次世界大戦後、イギリスはインドからの撤退を決定しました。その過程で、インドの分割独立は避けられないものとなり、ジンナーはパキスタン建国の父としてその実現に大きく貢献します。しかし、分割独立は、大規模な民族間の暴力と混乱を引き起こしました。

1947年8月、パキスタンは独立国家として誕生し、ジンナーは初代総督に就任しました。しかし、彼はそのわずか1年後に結核と肺癌により亡くなりました。彼の死後、パキスタンは、政治的不安定と経済的困難に直面することになります。

ジンナーへの評価

ジンナーはパキスタンでは「カーイデ・アーザム（最も偉大な指導者）」として崇拝されています。しかし、インドでは、インドの分割とそれに伴う暴力の責任を負う人物として批判されることも少なくありません。彼の役割と遺産は、現在でも様々な解釈がなされ、活発な議論の対象となっています。彼を取り巻く歴史的事実は複雑で、一義的な評価を下すことは困難です。

参考文献

Barbara D. Metcalf, Thomas R. Metcalf 著、河野肇 訳『ケンブリッジ版世界各国史_インドの歴史』創土社、2006年
Ayesha Jalal 著、井上あえか 訳『パキスタン独立』勁草書房、1999年
* その他、多数の書籍や論文

ジンナーの生涯は、インドとパキスタンの歴史、そして南アジアにおける宗教と政治の複雑な関係性を理解するための重要な鍵となっています。彼の功績と批判、そしてその複雑な遺産は、現代においてもなお、深く研究され、議論されています。

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