ムハンマド・ブン・トゥグジュ

ムハンマド・ブン・トゥグジュ：イフシード朝の創始者

ムハンマド・ブン・トゥグジュ（882年 - 946年）は、10世紀にエジプトを支配したイフシード朝の創始者です。彼はアッバース朝からエジプト総督に任命され、エジプト、シリアの一部、そしてイスラム教の聖地であるヒジャーズを統治しました。彼の生涯は、軍事的な才能と政治的な手腕によって彩られています。

生い立ちと初期の経歴

イブン・トゥグジュは、トルコ系の軍人の息子としてバグダードで生まれました。幼少期はシリアで過ごし、父のもとで軍事と行政の経験を積みました。905年にトゥールーン朝が滅亡すると、父と共に投獄されますが、後に解放され、エジプト総督に仕えることになります。

エジプト総督への道

エジプトでは、ファーティマ朝の侵攻に対抗する中で、アッバース朝の有力者ムウニス・アル＝ハーディムの支援を得ました。ムウニスの後ろ盾により、イブン・トゥグジュはパレスチナやダマスクスの総督を歴任し、935年にはエジプト総督に任命されます。しかし、ムウニスの失脚により一時その地位を追われますが、最終的には軍事力でエジプトを制圧し、総督の座を奪還しました。

イフシード朝の成立

938年、イブン・トゥグジュはアッバース朝のカリフから「イフシード」の称号を授与され、以降イフシードとして知られるようになります。彼はエジプトを統治する中で、シリアの支配をめぐり周辺の勢力と争いを繰り広げました。944年にはカリフからエジプト、シリア、ヒジャーズの世襲統治を認められ、イフシード朝を確立しました。

外交政策とシリアをめぐる抗争

イフシードは、シリアの支配をめぐり、イブン・ラーイクやハムダーン朝といった勢力と激しい抗争を繰り広げました。彼は軍事力だけでなく、外交交渉も駆使し、時には敵対勢力との和平を結びながら、自らの勢力拡大を図りました。

死と遺産

946年、イフシードはダマスクスで死去しました。彼の死後、息子のアヌージュールが後を継ぎましたが、実権は軍の最高司令官であったアブル＝ミスク・カーフールが掌握しました。その後、969年にファーティマ朝によってイフシード朝は滅ぼされ、エジプトは新たな時代を迎えることになります。

イフシードは、軍事的な才能と政治的な手腕により、エジプトに独立政権を築き上げました。彼の治世は、エジプトの歴史において重要な転換期であり、その遺産は後世にまで影響を与えました。

参考文献

Bacharach, Jere L. (1975). “The Career of Muḥammad Ibn Ṭughj Al-Ikhshīd, a Tenth-Century Governor of Egypt”. Speculum 50 (4): 586–612.
Bacharach, Jere L. (1993). "Muḥammad b. Ṭug̲h̲d̲j̲" (要購読契約). In Bosworth, C. E.; van Donzel, E.; Heinrichs, W. P. & Pellat, Ch. (eds.). The Encyclopaedia of Islam, New Edition, Volume VII: Mif–Naz. Leiden: E. J. Brill. p. 411.
Bianquis, Thierry (1998). “Autonomous Egypt from Ibn Ṭūlūn to Kāfūr, 868–969”. In Petry, Carl F.. Cambridge History of Egypt, Volume One: Islamic Egypt, 640–1517. Cambridge: Cambridge University Press. pp. 86–119.
Kennedy, Hugh (2004). The Prophet and the Age of the Caliphates: The Islamic Near East from the 6th to the 11th Century (Second ed.). Harlow: Longman.

もう一度検索