ムリッス・ムカンニシャト・ニヌア

ムリッス・ムカンニシャト・ニヌア：新アッシリア帝国の王妃

ムリッス・ムカンニシャト・ニヌア（アッカド語：Mullissu-mukannišat-Nīnua）は、古代メソポタミアに存在した新アッシリア帝国の王妃です。彼女はアッシュル・ナツィルパル2世（在位：前883年–前859年）の正妃であり、アッシュル・ナツィルパル2世の息子であるシャルマネセル3世（在位：前859-前824）の母であると考えられています。

生涯

ムリッス・ムカンニシャト・ニヌアに関する情報は、1989年にニムルドで発見された彼女の墓から得られたものに限られています。彼女は「大献酌官（great cupbearer）」を務めたアッシュル・ニルカ・ダインニの娘であり、王妃となる以前からアッシリアの貴族階級に属していたと考えられています。

アッシュル・ナツィルパル2世の王妃として

彼女の存在は、古代アッシリアの首都ニムルドの北西宮殿跡地で発見された王妃の墓と、そこから出土した副葬品によって知られています。サルコファガス（石棺）の蓋に刻まれた碑文から、彼女がアッシュル・ナツィルパル2世の王妃であったことが判明しました。石棺が埋葬室の入り口よりも大きかったことから、墓所の建設前に石棺が作られたと推測され、彼女が北西宮殿内の墓に埋葬された最初の人物である可能性が考えられます。

新アッシリア帝国において、ムリッス・ムカンニシャト・ニヌア以前の王妃の情報はほとんどなく、彼女は家族の背景や出自が判明している最初の王妃です。碑文から、彼女がアッシュル・ナツィルパル2世の「大献酌官」であったアッシュル・ニルカ・ダインニの娘であることが特定されています。アッシュル・ニルカ・ダインニは、紀年官（リンム）表において前860年のリンム職を務めた人物と同一人物である可能性があります。

マイケル・ローフは、アッシュル・ニルカ・ダインニの大献酌官任命とリンム職就任が、ムリッス・ムカンニシャト・ニヌアとアッシュル・ナツィルパル2世の結婚と合わせて行われたと主張しました。この説に基づけば、彼女はアッシュル・ナツィルパル2世の2番目の王妃であり、結婚生活は短かったと考えられます。しかし、これはあくまで推測であり、アッシュル・ニルカ・ダインニが早い時期から大献酌官の地位にあり、リンム職をずっと後に得た可能性も否定できません。アッシュル・ニルカ・ダインニとムリッス・ムカンニシャト・ニヌアの名前は典型的なアッシリア人の名前であり、アッシュル・ニルカ・ダインニが高い地位にあったことから、この親子はアッシリアの貴族階級に属していたと考えられています。

アッシュル・ナツィルパル2世の死後

アルベルト・カーク・グレイソンは、ムリッス・ムカンニシャト・ニヌアがアッシュル・ナツィルパル2世の死後も半世紀以上生きていたと主張しました。これは、彼女の墓から発見されたタルタン（総司令官）シャムシ・イルの印章に基づき、墓の建設が前800年頃であったと推測したためです。しかし、シャムシ・イルの印章がムリッス・ムカンニシャト・ニヌアの石棺ではなく、同じ墓室の銅の棺から発見されたことから、この説は最近の学者には支持されていません。

グレイソンの説は現在では否定されていますが、石棺の碑文から、ムリッス・ムカンニシャト・ニヌアがアッシュル・ナツィルパル2世よりも長生きしたことは確かであると考えられています。碑文には、ムリッス・ムカンニシャト・ニヌアがアッシュル・ナツィルパル2世とその後継者シャルマネセル3世の両方の王妃であったかのように記されています。この碑文の解釈には諸説あり、彼女がアッシュル・ナツィルパル2世の治世末期に結婚し、彼の息子とも結婚することが可能であったという説、または夫の死後も王妃の称号を維持することが許されていたという説（太后としての地位）などが挙げられます。しかし、このような事例はアッシリアの王妃にはほとんど見られません。また、碑文が単に彼女を正式な称号で呼んでいるだけで、アッシュル・ナツィルパル2世の王妃として解釈されるべきだという説もあります。ムリッス・ムカンニシャト・ニヌアはシャルマネセル3世の母であった可能性が高いと考えられていますが、彼女がシャルマネセル3世の妻であったか、母であったかについては、現代の学者による議論が続いています。

石棺の呪いと略奪

ムリッス・ムカンニシャト・ニヌアの石棺の蓋にある碑文は、主に彼女の墓を荒らす者たちへの呪いで構成されています。

しかし、この呪いにもかかわらず、ムリッス・ムカンニシャト・ニヌアの石棺は埋葬後のある時点で略奪されました。略奪の際、石棺の蓋の一部が破壊され、長年にわたり塵が墓の中に侵入しました。1989年に墓が発見された際、略奪された石棺の中から発見されたのは、石製のビーズ1つと骨の断片1つだけでした。

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