ニムルド

ニムルド遺跡の概要

ニムルド（Nimrud）は、現在のイラク北部ニーナワー県に所在する古代アッシリアの重要な考古遺跡です。この遺跡は現代の都市モースルから南東約30km、チグリス川の近くに位置し、総面積は約41平方キロメートルに及びます。ニムルドはアッシリア時代にはカルフ（Kalḫu）と呼ばれ、一時はアッシリア帝国の首都でした。アラブ人たちは狩人の英雄ニムロドに因んでこの地を「ニムルド」と命名しました。また、ニムルドは旧約聖書に登場するカラフ（Calah）と同一視されています。

歴史的背景

紀元前13世紀のアッシリア王シャルマネセル1世は、都市アッシュルから移り、カルフに第二王宮を築きました。この場所は、その後約1000年間にわたり繁栄を続けます。特に紀元前9世紀にはアッシュル・ナツィルパル2世が都を置き、彼の治世の下では都市は最盛期を迎えました。彼は壮大な宮殿や神殿を建設し、多くの動植物を集めた植物園と動物園も市内に設けました。さらに、その息子シャルマネセル3世は大規模な重要施設を含む新たな宮殿を建立します。カルフは紀元前710年頃までアッシリアの首都として機能し続けましたが、その後、サルゴン2世がドゥル・シャルキンに遷都したため、徐々にその役割を失っていきます。

ニムルドの発掘

ニムルド遺跡の初めての系統的な発掘は、1845年から1851年にかけてイギリスの考古学者オースティン・ヘンリー・レヤードによって行われました。彼は大規模な宮殿跡や彫刻、石碑の数々を発見し、その成果を「ニネヴェとその遺跡」という著書にまとめました。その後も、複数の考古学者による発掘が続き、アッシュル・ナツィルパル2世やシャルマネセル3世の宮殿跡や、数多くの美術品、文書が見つかりました。

柔らかな浮彫や象牙彫刻、さらには有翼獣の像など、発掘物の中には特に保存状態が良好なものもあり、当時の技術や芸術を具体的に知る手がかりとなっています。とはいえ、遺跡内の多くのオブジェクトは、イラクの厳しい気候にさらされ、劣化が進んでおり、保護の必要性が叫ばれています。

ISILによる遺跡の破壊

しかし、2014年にISILが北イラクを占拠した際、文化遺産への危機が顕在化しました。2015年3月5日、イラク政府はISILがニムルド遺跡を破壊し始めたと発表。4月11日には、ISILが遺跡を爆破する映像を公開し、その破壊状況が国際的に知られることとなりました。この時、遺跡の大部分が壊滅的な状態に陥ったと報じられています。国際連合教育科学文化機関（UNESCO）は、文化遺産の意図的な破壊を戦争犯罪と見なしました。

復興の試み

2016年11月、イラク軍によるニムルド奪回が報告されましたが、奪回された際の遺跡は90%以上が破壊されていました。破壊を免れた構造物も多くが損壊しており、文化遺産を保護する取り組みが急務となっています。現在も遺跡周辺は警備され、修復に向けた計画が検討されています。

ニムルドは、アッシリアの栄華や宗教的な側面を色濃く残しつつ、過去の文化や歴史が脅かされている状況において、その価値を見直す必要性が高まっています。

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