アッシュル・ナツィルパル2世

アッシュル・ナツィルパル2世：新アッシリア帝国の王

アッシュル・ナツィルパル2世（在位：紀元前883年 - 紀元前859年）は、古代メソポタミアの新アッシリア帝国の王です。彼の名前は「アッシュル神は後継者の守護者」を意味します。

生涯と業績

アッシュル・ナツィルパル2世は、父トゥクルティ・ニヌルタ2世の後を継いで王位に就きました。彼の治世は、大規模な遠征と領土拡大によって特徴づけられます。彼は小アジアやアラム地方（現在のシリア）に侵攻し、多くの地域を征服しました。特に新アッシリア帝国軍としては初めて地中海に到達し、フェニキアから貢納を取り立てました。

しかし、彼の治世は残酷な鎮圧でも知られています。征服した地域で反乱が起こると、彼は容赦なく鎮圧し、その残虐性は記録に残っています。このことが反乱を招く一因にもなりました。

アッシュル・ナツィルパル2世は、首都をアッシュルからカルフ（ニムルド）に遷都しました。彼はカルフに壮大な宮殿、神殿、その他の建造物を建設し、その建設には征服した人々を奴隷として使役しました。これらの建設事業は、アッシリアの富と芸術の発展に大きく貢献しました。また、彼は有能な管理者でもあり、現地支配者の貢納に頼るのではなく、アッシリア人の総督を任命することで帝国内の支配を強化しました。

軍事遠征

アッシュル・ナツィルパル2世は、ユーフラテス川沿いのアラム人やディヤラ川沿いのバビロンへの遠征を繰り返し行いました。彼は歩兵、騎兵、戦車からなる強力な軍隊を率いて、北部シリアのヒッタイト人やアラム人の国々を征服しました。

フェニキアやカナン人の都市を破壊することは避けましたが、テュロス包囲は失敗に終わりました。しかし、フェニキアからの貢納は、彼の軍事費や建築費の重要な資源となりました。彼は鉄を武器に、レバノン杉を建築に、金銀を軍隊の支払いに利用しました。征服した人々に対しては、以前よりも多くの貢納と税を課しました。

カルフの宮殿

アッシュル・ナツィルパル2世の宮殿は、紀元前879年にカルフに建設されました。宮殿の壁面にはアラバスター製のレリーフが並べられ、有翼の守護霊や狩猟を行うアッシュル・ナツィルパル2世の姿が精緻に彫刻されています。各レリーフには、アッシュル・ナツィルパル2世の系譜、軍事的勝利、帝国の国境、そしてカルフの創建と宮殿の建設について記された碑文が刻まれています。

1840年代にイギリスの考古学者オースティン・ヘンリー・レヤードがカルフを発掘し、アッシュル・ナツィルパル2世の北西宮殿を発見しました。発掘されたレリーフや彫刻の多くは大英博物館に展示されています。

ニムルドのレリーフ

前612年にアッシリアが滅亡した後、アッシュル・ナツィルパル2世の宮殿は土に埋もれました。1845年にレヤードによって再発見され、発掘が行われました。発掘されたレリーフはヨーロッパや北アメリカに送られましたが、宮殿には多くのレリーフが残されました。1947年から1957年にかけてマックス・マローワンによって再発掘が行われ、その後イラク考古省に引き継がれました。

宮殿のレリーフには、アッシュル・ナツィルパル2世の王権イデオロギーが反映されています。軍事的成功、神々への奉仕、神々からの庇護、そしてアッシリアの繁栄というテーマが描かれています。狩猟のシーン、特に獅子狩りは、ニムルドのレリーフの中でも最も有名なものです。レリーフには、アッシリア人と非アッシリア人の関係も描かれており、アッシリア人は常に栄光の瞬間が描かれ、非アッシリア人は服従する姿が描かれています。

遺跡の発掘後

ニムルドのレリーフは、世界中の博物館に所蔵されています。博物館では、レリーフを元の場所と同じ形式で展示することで宮殿の雰囲気を再現しようと試みています。

2014年10月には、ISIL（イスラム国）がニムルドのアッシュル・ナツィルパル2世の宮殿を含むイラクの考古遺跡を略奪し、遺品を闇市場に売却しました。これにより、数億ドルの価値があるかけがえのない作品が失われました。

アッシュル・ナツィルパル2世の治世は、新アッシリア帝国の拡大と繁栄の時代であり、その遺産はカルフの宮殿とそこに残されたレリーフを通して今日に伝えられています。

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