ムンナー兄貴、医者になる

『ムンナー兄貴、医者になる』（Munna Bhai M.B.B.S.）

2003年にインドで公開された、心温まるコメディドラマ映画です。これがラージクマール・ヒラーニ監督にとっての初めての長編映画監督作品となりました。後にカルト的な人気を博しシリーズ化される『ムンナー・バーイーシリーズ』の記念すべき第1作としても知られています。

劇場公開されるやいなや、観客からの熱狂的な支持を集め、上映期間は25週間を超える記録的なロングランとなりました。公開から26週目の時点でも、インド国内の257スクリーンで上映が続けられていたという事実は、本作の計り知れない人気と社会現象にまでなった影響力を物語っています。

物語の概要

この映画は、型破りな主人公が医師になるという一風変わった目標に向かって奮闘する姿を描いています。その過程で巻き起こる様々な騒動や、彼が周囲の人々の心に変化をもたらしていく様子が、ユーモアと感動を織り交ぜながら綴られていきます。従来の医療ドラマとは一線を画す、人間味あふれるアプローチが特徴です。

出演者たち

本作には、インド映画界を代表する俳優たちが集結しています。主人公であるムルリ・プラサード・シャルマ、通称ムンナー・バーイーを演じたのは、その個性的な存在感で知られるサンジャイ・ダットです。特筆すべきは、彼の父親役であるハリ・プラサード・シャルマを演じたのが、実父である名優スニール・ダットであった点です。スクリーン上での二人の親子共演は、約10年ぶりの実現となり、大きな話題を呼びました。ヒロインであり、ムンナーが慕う医師スマン・アスタラ（チンキ）を演じるのはグレーシー・シンです。そして、ムンナーの常に傍らに寄り添う忠実な相棒、サルカシュワル（サーキット）役にはアルシャード・ワールシーが起用されました。この役は当初別の俳優が検討されていましたが、アルシャード・ワールシーが見事に演じ切り、彼の俳優キャリアにおける重要な転換点の一つとなりました。その他、厳格な医科大学の学長JC・アスタラ役をボーマン・イラニ、ムンナーの友人ザヒール役をジミー・シェールギル、ムンナーの母親パールヴァティー・シャルマ役をロヒニ・ハッタンガディーが演じるなど、実力派が揃っています。

また、現在国際的にも評価の高い俳優ナワーズッディーン・シッディーキーも、当時はまだほとんど無名の存在でしたが、スリ役で出演しています。クルシュ・デブー、ヤティン・カルエカル、ロヒタシュ・ガウドといった面々も物語を彩っています。

制作の舞台裏

ラージクマール・ヒラーニ監督がこの映画の着想を得たのは、友人である医学生との何気ない会話や、身内が病気になった際に医療関係者と関わる中で感じたことだったといいます。こうした個人的な経験が、作品にリアリティと深みを与えています。

キャスティングの道のりは平坦ではありませんでした。脚本執筆の初期段階では、ムンナー・バーイー役としてアニル・カプールの名が挙がっていました。その後、一度はスーパースターであるシャー・ルク・カーンが主役に決定し、ザヒール役のサンジャイ・ダットとの共演が決まっていましたが、シャー・ルク・カーンが健康上の問題、具体的には深刻な腰痛のため、残念ながら降板することになりました。彼は本編には出演していませんが、エンドクレジットではその協力に感謝の意が示されています。また、ヒラーニ監督はシャー・ルク・カーンとの話し合いの中で、アイシュワリヤー・ラーイを起用するというアイデアがひらめいたことも明かしています。主役には他にもヴィヴェーク・オベロイが候補に挙がるなど検討が重ねられましたが、最終的にサンジャイ・ダットがムンナー・バーイーを演じることに決定しました。

映画の撮影は主にプネーの農業大学とムンバイにあるグラント・ガバメント・メディカル・カレッジで行われました。予算が潤沢ではなかったため、ヒラーニ監督はいくつかのシーンで撮影方法を工夫せざるを得ませんでした。特に、物語のクライマックスの一つである結婚式のシーンでは、セットを一から作る費用や、ヒロインであるグレーシー・シンの新たな衣装にかかる費用が数千ルピー（当時の価値基準で）と試算され、予算を大幅にオーバーすることが判明しました。そこで、監督は費用を削減するため、実際に結婚式が行われている式場運営者に交渉し、結婚式が終わった後の時間を借りて撮影を行うという大胆な手段を選びました。こうした制約の中でも質の高い作品を作り上げた監督の情熱と創意工夫がうかがえます。

音楽作品

映画音楽はアヌー・マリクが手掛け、印象的な楽曲を生み出しました。作詞はアッバス・タイヤワーラーとラハト・インドリが担当しています。サウンドトラックアルバムも商業的に大きな成功を収め、Box Office Indiaの記録によると、100万枚以上を売り上げ、2003年のインドにおけるサウンドトラック売上ランキングで15位にランクインしました。

類似性の指摘について

公開後、一部の批評家や観客から、本作がロビン・ウィリアムズ主演のハリウッド映画『パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー|パッチ・アダムス_トゥルー・ストーリー』（1998年公開）とテーマやプロットに類似点が見られるとの指摘がありました。しかし、ラージクマール・ヒラーニ監督は、本作の製作に入る前に『パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー|パッチ・アダムス_トゥルー・ストーリー』を鑑賞したことは一度もないと明確に否定しています。

『ムンナー兄貴、医者になる』は、その斬新なストーリーテリングと魅力的なキャラクター、そして心温まるメッセージによって、多くの観客の支持を得て大ヒットしました。この成功がラージクマール・ヒラーニ監督をインド映画界のトップ監督の一人へと押し上げ、主演のサンジャイ・ダットやアルシャード・ワールシーにとっても代表作の一つとなりました。また、インド映画におけるコメディドラマの可能性を広げた作品としても重要な位置を占めています。

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