ムーロム公国

ムーロム公国は、現在のヴラジーミル州ムーロムを拠点とした、キエフ・ルーシ時代に存在した公国の一つです。その成立からモスクワ大公国への併合までの歴史を紐解きます。

ムーロム公国の成立

ムーロムは、中世の大部分においてフィン・ウゴル系のムーロマ人の活動地域でした。9世紀にはフィン人の重要な居住地となり、10世紀にはスカンディナヴィア系の民族も移住していたことが、考古学的発見から明らかになっています。

『原初年代記』には、8世紀にはルーシがムーロムを支配していたと記されています。11世紀初頭には、ウラジーミル1世の息子の一人であるグレプ・ウラジーミロヴィチが公国を統治しましたが、同世紀後半にはヤロスラフ1世の次男スヴャトスラフ2世の子孫が支配するチェルニゴフ公国に組み込まれました。これは、当時のチェルニゴフ公フセヴォロド・ヤロスラヴィチが1076年にキエフ大公を継承した頃のことと考えられます。

リューベチ諸公会議とムーロム

1090年代前半、チェルニゴフ公オレグ・スヴャトスラヴィチ（ヤロスラフ1世の孫）はポサードニクを通じてムーロムを支配していました。1097年のリューベチ諸公会議では、ムーロムはオレグの支配領域として正式に認められました。会議の結果、オレグの弟ダヴィドがチェルニゴフの共同統治者となり、オレグの領国はオレグ、ダヴィド、そしてもう一人の弟ヤロスラフの間で分割されることになりました。この時、ムーロムはリャザンと共にヤロスラフの分領となったのです。

モンゴル侵攻と公国の衰退

1237年から1238年にかけて、ムーロムはモンゴル帝国の侵攻によって徹底的に破壊され、荒廃しました。モンゴルの皇子バトゥがリャザンの辺境に現れ、リャザン、ムーロム、プロンスクの諸公に貢納を要求しましたが、諸公がこれを拒否したため、領国は焼き尽くされました。その後、約1世紀にわたり、ムーロム公は現れることはありませんでした。

モスクワ大公国への併合

1392年、モスクワ公家のウラジーミル大公ヴァシーリー1世は、トクタミシュ・ハンの勅許を得て、ニジニ・ノヴゴロド、ゴロジェツと共にムーロムを自領に併合しました。これにより、ムーロム公国はその歴史に幕を閉じ、モスクワ大公国の一部として新たな時代を迎えることになったのです。

ムーロム公国は、短い期間ながらも独自の歴史を刻み、周辺地域との関係の中でその存在を示しました。その盛衰は、当時のルーシの政治情勢やモンゴル帝国の影響を色濃く反映しています。

参考文献

Dimnik, Martin, The Dynasty of Chernigov, 1146-1246, (Cambridge, 2003)
Franklin, Simon, and Shepard, Jonathan, The Emergence of Rus, 750-1200, (Longman History of Russia, Harlow, 1996)
* Martin, Janet, Medieval Russia, 980-1584, (Cambridge, 1995)

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