メイン・ストリートのならず者

ローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』(Exile on Main St.)：混沌と創造の産物

1972年、ローリング・ストーンズは、音楽史に燦然と輝く大作『メイン・ストリートのならず者』(Exile on Main St.)を発表しました。ジミー・ミラーのプロデュース、グリン・ジョンズ、アンディ・ジョンズ、ジョー・ザカリノのエンジニアリングにより生み出されたこのアルバムは、イギリスとアメリカで1位を獲得するなど、商業的にも大成功を収めました。

創作の舞台：フランスとロサンゼルスの狭間

このアルバムの誕生には、興味深い経緯があります。1971年、イギリス国内ツアー後、巨額の税金問題を回避するため、ストーンズはフランスへと移住。自身のレーベル「ローリング・ストーンズ・レコード」を設立し、前作『スティッキー・フィンガーズ』に続く新作の制作に着手しました。

レコーディングの主な舞台となったのは、キース・リチャーズの所有するフランス、ヴィルフランシュ＝シュル＝メールのヴィラ「ネルコート」の地下室でした。移動式スタジオを併設し、24時間体制でレコーディングが行われたこの環境は、豪華でありながらも、混沌としたものでした。

ネルコートでのセッションは、リチャーズ主導のもと進行されましたが、ドラッグや、怪しい関係者らの出入り、メンバー間の不和など、作業は困難を極めました。ヘロイン中毒の問題、メンバーの私生活の乱れなどが、レコーディングの進捗を阻害したのです。チャーリー・ワッツは、この状況に耐えかねて一時的にレコーディングから離脱、一部楽曲ではジミー・ミラーが代役を務めることになります。ミック・ジャガーは、この頃の状況を「ラリッてた」と表現しています。

ネルコートでのセッションが一旦中断したのち、ストーンズはロサンゼルスのサンセット・サウンド・レコーダーズに移り、オーバーダビング作業を行いました。ここでは、ジャガーのボーカル録りや、アル・パーキンス（スティールギター）、ビル・プラマー（アップライトベース）らによる緻密な作業が進められました。

音楽的多様性と評価

『メイン・ストリートのならず者』は、その音楽的多様性でも知られています。ポップス以外の要素、カントリー、ブルース、ハードロック、そしてカバー曲など、様々な音楽が融合されています。ジャガー自身も「音楽の展覧会」と表現するほど、多様な楽曲が収録されています。「ダイスをころがせ」やキース・リチャーズの代表曲の一つ「ハッピー」はシングルカットされ、ヒットを記録しました。

発売当初は、過度にラフなサウンドが批判の対象となりましたが、時を経て、その「ラフでルーズ」なサウンドは、ストーンズの代名詞となり、アルバム自体の評価も大きく高まっていきました。キース・リチャーズは「史上初のグランジ・レコード」と表現し、他のメンバーも本作を絶賛していますが、ジャガーは「過大評価されている」とやや複雑な心境を語っています。しかしながら、その制作過程の困難さ、そして繰り返し聴くことで新たな発見が得られる奥深さにも言及しています。

アルバムの遺産

『メイン・ストリートのならず者』は、音楽史に名を残す名盤となりました。その混沌とした制作過程、多様な音楽性、そして「ラフでルーズ」なサウンドは、後のアーティストにも大きな影響を与えています。数々のリイシューや、制作過程に迫るドキュメンタリー映画『ストーンズ・イン・エグザイル〜「メイン・ストリートのならず者」の真実』の制作も、その重要性を物語っています。このアルバムは、ローリング・ストーンズの、そしてロック音楽の歴史において、重要な位置を占める作品であることは間違いありません。

その他

アルバムのアートワークは、スイス人写真家ロバート・フランクの作品が使用されています。
1972年の北米ツアーは、大成功を収めましたが、暴動やメンバーの奔放な生活ぶりも話題となりました。このツアーの様子は、後に映画『レディース＆ジェントルマン』として公開されました。
* 2010年には、未発表音源などを収録したデラックス・エディションがリリースされ、再び大ヒットを記録しました。

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