スティッキー・フィンガーズ

ローリング・ストーンズ『スティッキー・フィンガーズ』：時代を彩った名盤

1971年、ローリング・ストーンズは新たな時代の幕開けを告げるアルバム『スティッキー・フィンガーズ』(Sticky Fingers)を発表しました。このアルバムは、イギリスとアメリカで共に1位を獲得するなど、商業的な成功を収めただけでなく、音楽史における重要な作品としても高く評価されています。

音楽性とサウンド

『スティッキー・フィンガーズ』は、前作『ベガーズ・バンケット』からさらに深化させたサザン・ロックの影響が色濃く反映されています。ブルージーでグルーヴィーなサウンドは、ストーンズの音楽的進化を示すだけでなく、時代を反映した音楽性の多様性も感じさせます。楽曲の全てが後のライブで演奏されたという事実は、これらの楽曲が持つ普遍的な魅力を物語っています。同等の評価を受けたストーンズのオリジナルアルバムは、『ブラック・アンド・ブルー』(1976年)と『女たち』(1978年)のみです。

制作背景と経緯

本作は、ミック・テイラーが本格的に参加した最初のアルバムであり、同時にブライアン・ジョーンズが参加しなかった最初の作品でもあります。ミック・ジャガーは、このアルバムの制作について「妙な感じがした。全く新しい世界だった」と振り返っており、前作までのサウンドとは一線を画す試みであったことが分かります。レコーディングは、1969年末のアラバマ州マッスル・ショールズ・スタジオを皮切りに、ロンドンのオリンピック・スタジオ、そしてミック・ジャガーの自宅にあるモバイル・スタジオなど、複数箇所で行われました。このアルバム制作期間中には、次作『メイン・ストリートのならず者』に収録された楽曲の初期バージョンも制作されています。

『スティッキー・フィンガーズ』というタイトルは、当初は仮タイトルでしたが、最終的にそのままアルバムタイトルとして採用されました。1970年はストーンズにとって新曲が発表されなかった年でしたが、同時に大きな転換期でもありました。彼らは、長年のマネージャーであったアラン・クレインと決別し、自身のレーベル「ローリング・ストーンズ・レコード」を設立したのです。このレーベル設立は、彼らが音楽活動における完全な自主性を手に入れたことを意味しており、このアルバムは、その独立レーベルからの第一作目という歴史的意義も持っています。クレインとの契約問題には複雑な法的争いが伴い、ストーンズはイギリスを離れてフランスへ移住せざるを得ませんでした。この争いの影響は、楽曲の版権にも及んでおり、「ブラウン・シュガー」や「ワイルド・ホース」などは、アブコ・レコードとローリング・ストーンズ・レコードの両方からリリースされた編集盤に収録されています。

アートワークとジャケットデザイン

アルバムのジャケットデザインは、世界的ポップアーティストのアンディ・ウォーホルが担当しました。ジーンズを穿いた男性の股間のクローズアップという、当時としては非常に過激なデザインが大きな話題となりました。ジャケットには本物のジッパーが取り付けられており、開閉が可能だったことも特徴です。ジッパーは英米盤では無銘でしたが、日本盤はYKK製でした。CD化にあたり、このジッパーは再現が難しかったため廃されましたが、一部の再発盤ではジッパーが再現されています。ジャケットの中には、ブリーフを穿いた男性の写真が封入されており、このモデルがミック・ジャガーではないかという噂もありましたが、ジャガー自身はそれを否定しています。スペイン盤では、ジャケットデザインが猥褻だと判断され、変更されました。

評価と影響

『スティッキー・フィンガーズ』は、イギリスとアメリカで4週連続1位を獲得するなど、世界中で大ヒットを記録しました。商業的な成功だけでなく、音楽的な評価も高く、『ローリング・ストーン』誌の「500 Greatest Albums」で64位にランクインするなど、名盤として広く認められています。ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ミック・テイラーらメンバー自身も、このアルバムをストーンズの最高傑作の一つとして高く評価しています。

収録曲と参加ミュージシャン

アルバムには、「ブラウン・シュガー」「ワイルド・ホース」「キャン・ユー・ヒア・ミー・ノッキング」など、ストーンズを代表する名曲が多数収録されています。これらの楽曲は、ジャガー/リチャーズによる作曲が中心ですが、他のメンバーやゲストミュージシャンも大きく貢献しています。特に、「スウェイ」では、ザ・フーのピート・タウンゼントやフェイセズのロニー・レインらがコーラスで参加しています。

再発とデラックス・エディション

『スティッキー・フィンガーズ』は、これまで何度も再発されており、2015年には未発表テイクを追加収録したデラックス・エディションとスーパー・デラックス・エディションが発売されました。デラックス・エディションには未発表テイクに加え、1971年のリーズ大学公演のライブ音源が収録されており、スーパー・デラックス・エディションにはさらにマーキー・クラブ公演のライブ映像と7インチシングルが同梱されています。

『スティッキー・フィンガーズ』は、ローリング・ストーンズの音楽的進化と、彼らが築き上げた伝説の一端を垣間見せる、まさに歴史的名盤といえるでしょう。その音楽性、ジャケットデザイン、そして制作背景にいたるまで、あらゆる要素が時代の空気を凝縮し、今もなおリスナーを魅了し続けています。

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