メジロベイシンガー

2001年春に生まれた鹿毛の牝馬、メジロベイシンガーは、父に天皇賞（春）や宝塚記念を制した名馬メジロライアン、母にメジロストークを持つ血統背景を備えていました。美浦トレーニングセンターの大久保洋吉厩舎に所属し、競走馬としての道を歩み始めます。馬名はアメリカの女優、キム・ベイシンガーに由来。また、半兄には中山グランドジャンプに優勝したメジロファラオがおり、同じく障害分野での活躍を見せた兄に続く存在としても注目されました。

競走キャリアは平地競走からスタートしましたが、残念ながらここでは勝利を挙げることはできませんでした。そこで陣営は障害競走への適性を見出し、活路を求めます。これがメジロベイシンガーの能力を開花させる転機となりました。

2005年 1月29日、東京競馬場での障害競走デビュー戦で、いきなり2着と好走し、障害への高い適性を示しました。その後、わずか3戦目で障害初勝利を挙げると、続くオープン競走も快勝。順調にキャリアを積み重ね、障害馬としての才能を鮮やかに見せつけました。しかし、夏場に休養を挟んだ後、復帰戦では4着、8着と連敗を喫し、一時的に足踏みを強いられます。

再び迎えた秋、休み明け3戦目として出走した新潟ジャンプステークス（J・GIII）で、メジロベイシンガーは内ラチ沿いを先行する形でレースを進めます。そして直線で鮮やかに抜け出し、後続を退けて重賞初制覇を達成しました。この勝利で、彼女は障害界のトップクラスに名乗りを上げます。さらに年末には、障害競走の最高峰レースの一つである中山大障害（J・GI）に挑戦。強豪が集まる中で、牡馬相手に一歩も引かぬ走りを披露し、見事3着と好走しました。この結果は、彼女が障害界のトップレベルに通用する実力を持っていることを証明しました。

しかし、競走生活は順風満帆ではありませんでした。翌2006年のJ・GI中山グランドジャンプでは、前年の好走から期待されましたが、12着と大敗を喫してしまいます。このレースの後、彼女は長期にわたる休養に入ることになりました。実に1年以上ものブランクを経て競走馬として再び姿を見せたものの、復帰直後は往時の輝きを見せるには至りませんでした。しかし、諦めずに調整が進められ、復帰から3戦目となる東京ハイジャンプでは、人気薄ながらも果敢な走りを見せ、2着に入線。この好走は、再びトップレベルで戦える能力が健在であることを証明しました。

そして、さらに半年間の休養を経て出走したイルミネーションジャンプステークスで、メジロベイシンガーはついに復活の勝利を飾ります。この勝利は、新潟ジャンプステークス制覇以来、実に約2年3ヶ月ぶりとなる感動的なものでした。しかし、この勝利の裏で再び故障が発生してしまい、残念ながらこれが現役最後のレースとなりました。

度重なる怪我と戦いながら障害競走の舞台で活躍したメジロベイシンガーは、この故障のため再び長期休養に入り、競走馬として復帰することなく、2009年 3月20日付けでJRAの競走馬登録を抹消され、現役を引退しました。

競走生活を終えたメジロベイシンガーは、生まれ故郷でもある北海道のレイクヴィラファームへと移動し、現在は繁殖牝馬として新たな役割を担っています。母として、そしてメジロの血を後世に伝える存在として、活躍馬を送り出すことが期待されています。

メジロベイシンガーの血統背景には、母メジロストークの姉に当たるメジロビューティーがいます。このメジロビューティーの産駒には、G1レースを複数制覇し「女傑」と呼ばれたメジロドーベルがおり、メジロベイシンガー自身も、メジロ牧場が長年培ってきた優れた牝系の流れを汲む一頭であると言えるでしょう。彼女の障害競走での実績と、繁殖牝馬としての今後の活躍に、競馬ファンは期待を寄せています。

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